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「宜しく……お願いしますっ」
そうして私は今、理人が新しく用意してくれた新居で、彼と向き合って、照れながら挨拶なんて交わすことになっている。
さすがに三つ指はつかなかったけれど、それでも充分厳かな気持ちになっているのは事実で――。
私より一足先に新居へ引越しを終えていた理人も、部屋の敷居をまたぐなり玄関先で頭を下げてこんなことを始めた私に、ドギマギとした様子だった。
慌てて背筋を伸ばしてかしこまると、
「こ、こちらこそ宜しくお願いします!」
私の手荷物を受け取りながら、照れた様子でビシッと頭を下げる。私はそんな理人が本当に愛しくて。
これからここで、彼との新しい暮らしが始まるんだと思うと、私の心臓はこれ以上ないくらいに高鳴った。
華やぐ心のままに、私はそんな理人にギュッとしがみつく。
そうして、私からは恥ずかしくてなかなか言えなかった言葉を、今日は頑張って声に出して伝えてみる。
いつもなら、彼から言ってもらってばかりの言葉を。
「――理人、愛してるっ!」
……End……
2019.7.16〜2019.9.19
イラスト:雪さま
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