風鈴市

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

風鈴市

川崎大師の風鈴市、私はそこで風鈴を買った。この風鈴市、様々な風鈴が各露店に並ぶ。でも、私が買った風鈴は、きらびやかに立ち並ぶメインストリートで売ってはいない。チリリリン、キュイイン、リンリンリーン、奏でる音は揚々あり、硝子、陶器など、素材自体にも種類がある。そんな中、そよ風とともにリィ~ンと心に染み入る音が聞こえた気がした。「あっ、いい音・・」辺りを見渡すが、露店が多く、音の断定ができない。『これは無理ね。』諦めて進もうとしたら、また音が聞こえた。リィ~ン リィ~ン 今度は、私を誘うかのように音の道が見える。私は無意識にふらふら音の方向へ向かい歩いていた。気づいた時、そこは裏通りの狭い通路の中だった。5メートル後方に出入口があるが、誰も気にする者がいない。店の背後は薄暗く、奥行きが全くわからない。私は露店の前に立っており、お婆さんが店主をしていた。紫色の頭巾を被り、その顔には人生経験を示すが如く皴と言う年輪が多数表れている。かなりの高齢者であるように思う。店には宙吊りに飾られた大小様々な風鈴、見たこともない歪な形の風鈴が並んでおり、それぞれ違う音を奏でている。「お好みの音がありましたかな?」お婆さんは目をつむりながらこちらの気配を察しているようだ。「あっ、あ、いえ、何か音に誘われるって言うか、そんな感じで来ちゃいました。」「そうかい、そうかい、あんた、何か強い思いがおありだね?」強い思い?心当たりは・・ある。彼氏に振られた。年の離れた彼。魔が差したのだろう、私が。後悔の念。彼はとても優しく、大事にしてくれていたのに・・浮気した。職場の同僚にどうしても数合わせで参加してと誘われた合コン。そこで2歳上のイケメン君と意気投合し、酔った勢いでホテルでセックスまでしてしまう。会社の同僚が狙っていた男性だったので恨みを買い、彼氏にばらされた。事実を知り、彼は寂しそうに、でも優しく言った、今までありがとう、年が離れて不満だったろうね、ごめんね。それが別れの言葉。そんなことはない!ごめんなさい!罪悪感からか、その一言が出なかった。あるいは、本当は心の中にそんな思いがあったのか。私は黙って彼の姿が見えなくなるまで、ただただ見送った。彼から以後、連絡はない。こちらからは連絡しづらく、もう三月が経過した。あんな年上、いなくなってせいせいした。大体12も離れてるんだから・・って思えたら。あのイケメン君とは付き合うこととなり、週1、2回はデート。でも、直ぐにホテルでセックスってデートと言えるのだろうか?彼女ではなくセフレ?こちらから連絡しても返事はない。なのに向こうからは一方的に言ってくる。あの人は・・優しかった。いつも必要以上に気を使ってくれた。甘えさせてくれた。私はそれを簡単に裏切った。これは、その報いだと思う。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!