公園

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●公園までの道のり SE・杖をついて歩く音 (篤のモノローグ) この街に引っ越して来て1年経った。 駅から少し離れた住宅地。 子供の数が多く、比較的治安がいい。 今日のように公園に来ると、下校したての子供たちが楽しそうに遊んでいる。 ●公園 SE・子供たちの遊ぶ声。公園の効果音 ○ベンチに腰を下ろす篤 篤  「よっこらせ、っと。     にしてもいい陽気だな〜。     子供たちは元気だし…… ん?あれ……ホームレス?」 (篤のモノローグ) 見ると長い髪の、ひどく痩せ細った男が背筋をピンと立てて、あぐらをかいて座っていた。よく手入れされた八の字のちょび髭をはやし、扇子をパタパタとはためかせている。まるで大河ドラマに登場する平安貴族のような振る舞いだが、着てる服はぼろぼろでつぎはぎだらけだ。地べたに腰を下ろしているので、やっぱりホームレスなのだろう。粗末な布の上には和紙の束と硯、筆が置かれている。その脇には空になった缶詰が置かれていて、「喜捨(きしゃ)を許す」と書かれた札が立っていた。好奇心に駆られた子供たちを、時折ちらと眺めながらぱたぱたと扇子を扇ぎ、微動だにしない。 篤  「おかしなホームレスだな〜…… だけどどこかで見たことあるよう      な……それとも芸人の度胸試し     だったりして……待てよ?     修行中の宗教者って線も……」 子供A「おじちゃん!」 篤  「わ!なに?どうした」 子供A「おじちゃん、足が悪いの?」 篤  「ん?あ〜……そうなんだ。     おじちゃん、崖から落っこっちゃっ     てな」 子供A「痛かった?」 篤  「そりゃ、痛かったさ。     あ、そうだ!     君にこの100円玉あげるからさ、     あそこで扇子扇いでるホームレス     のおじさんにこの500円玉渡して     きてくれないか?」 子供A「いいよ!でも僕100円玉いらない。     ただで持ってく」 篤  「君、えらいな〜!」 子供A「100円貰ったってマンガ本1冊買え     ないもん」 篤  「ぐ……」 子供A「じゃあ、渡してくる!」 篤  「あ、ああ……。頼んだぞ〜」 SE・子供Aの走って行く音 篤  「今日日(きょうび)子供は100円じゃ     喜ばんのか……」 女医師「……面白い寄付の仕方ですね」 篤  「ん?ああ、どうも……。 見られてたんですか。     いや、恥ずかしいな……」 女医師「ふふふ……」 篤  「近くにお住まいなんですか?」 女医師「職場が近くです。     すぐそこの病院の。研修医です」 篤  「あ、そうなんですか。     奇遇だな。いや、じつは     私ライターをやってまして、     介護、医療、福祉の記事を中心に     書いてます。もしかしたら、     どこかでお世話になってるかも     知れません」 女医師「そうなんですね。資料……     たくさん目を通すので。どこかで     お世話になってると思います」 篤  「ご専門は?」 女医師「精神科医です」 篤  「そうですか。まだお若いのに     すごいですね」 女医師「いえ、そんなことないです」 篤  「休憩時間ですか?」 女医師「今日は非番です。     この時間帯だと子供達が多くて、     遊んでる姿眺めてると     リラックスできるんです」 篤  「あはは、わかります。     さっきみたいに突然話しかけられた     りするし。たしかに癒されます」 女医師「ふふふ……患者さんもそうですけど     、職場で接する人もわりと年配の方     が多いので……。なんとなく」 篤  「……それだけ若いとカウンセリング     するのも大変かもしれないですね。     まして年配の患者さんだったら」 女医師「ええ、そうなんですよ。     それもあって年配の男性の     カウンセリングはほとんど     ありません。意外かもしれない     けど、年配の女性が相手だと     みなさん、熱心にお話しされて     いきますね」 篤  「ああ、なるほど」 女医師「それと10代の子供達ですかね。     比較的若い医師の方が話しやすい     みたい」 篤  「へ〜、適材適所って言うんです     かね?世の中うまくできてるな〜」 母親A「あら、先生。今日はお休みなの?」 女医師「ああ、鈴木さん。あれ?     今日はおひとりですか?」 母親A「ええ、そうなの。     りくとも中学になっちゃたし、     わりと勉強してるみたい     なんだけど、部屋にいることが     多くなっちゃって……顔つきが     旦那に似てきてね〜、     声も変わってきたし、ほら、     なんていうの……?」 篤  「あの、それじゃ、僕はこれで……」 母親A「ああ、ごめんなさい」 篤  「いえいえ、用事もありますし……」 ○篤が杖で移動を始める 女医師「あの……気づかいの仕方がとっても     ユニークでした。参考にさせて     もらいます」  篤  「いや、子供の頃は僕があの子の     立場だったんです。100円もらった     ら、上機嫌で駄菓子屋に行って     ましたけどね。それじゃ」 女医師「彼、コンビニで名探偵コナンの     ウエハースチョコ買う機会を     逃しましたね」 篤  「あははは、言えてる」 母親A「やだ、もしかしたら     お邪魔だったかしら……」 ○杖で移動を続ける篤 子供A「おじさーん!     500円、渡してきたよ!」 篤  「お、おお。ありがとな」 子供A「どうしたの?」 篤  「え?ああ、いや……ほんとに     100円いらないのか?」 母親B「ひさしー!     知らない人に話しかけちゃ     ダメ!」 子供A「僕、あの女の先生嫌い」 篤  「なんでさ?きれいな人だし、     優しいし」 母親B「ひさし!     何回言ったらわかるの!」 篤  「……ありがとな!」 子供A「うん……じゃーねー!」 ○移動を続ける篤 篤  「……お、見事な木だな。     何年この場所に立ってるんだろ?     ちょっと失敬。よっこらせっ、と」 ○遠くから 母親B「ひさし、先生にご挨拶なさい」 子供A「ヤダ!」 母親B「ひさし!」 女医師「お母さん、いいんですよ」 篤  「ぷ……、あいつ、変わってるな〜     ……名前、ひさしって言うのか」 ○回想      少年篤「おまえ、ひさしって言うんだ!       おれあつし。オレたち友達に       なろうぜ!」   ひさし「え?いいよ」   少年篤「見ろよ!ここ秘密基地にするん       だ!スゲーだろ!?」   ひさし「うん!スゲーな!」   少年篤「でけー!でけーよ!鯉だ!       ひさし!網!網、用意して!」   ひさし「わ!ちょっと待てよ!       篤!」   少年篤「うそ!ひさしもあの娘       好きなの?」   ひさし「え?篤も?でもかわいい       よな、あの娘……」   中学篤「うっそだろ〜!       昨日までおれと一緒に遊んでた       のに、なんでおまえは100点       なんだよ〜?」   ひさし「数学はなんとなく       わかんだろ?」   中学篤「ひさし!おまえなんでそんなに       モテるんだよ?」   ひさし「知らねーよ。       向こうから寄って来るんだよ」   中学篤「ひさし、おまえもう志望校       決まった?」   ひさし「まだ。篤は?」   高校篤「おまえも歴史好きだったんだ。       え?戦国時代好きなの?       おまえ知ってた?       戦国大名って男とエッチしてた       奴ばっかりなんだぜ!?」   ひさし「知ってる!       衆道ってやつだろ?」   高校篤「ひさし、おまえいいよな〜。       おれ?おれは滑り止めの大学       だわ」   ひさし「篤、おまえもっと       飲めよ!大学入ってから       元気ね〜ぞ!?」   大学篤「ひさし、おまえ飲み過ぎだっ        て!ひさし、おい、ひさしって       ば!」 ○電話のやり取り   大学篤「ああ、ひさしか……。ライブ?       見たよ。正直おまえには嫉妬       するよ。え?合コン?おれ?       いいの?行く行く!」   大学篤「おい、ひさし。       ちゃんとメシ食ってんのかよ?       痩せすぎじゃね?」   ひさし「ミュージシャンは、       これくらいが       ちょうどいいんだよ」   大学篤「音楽やめる?なんで?       だっておまえ才能あんじゃん。       あんなにファンも       いんのに……」   ひさし「もう、やる意味ない。       みんなして散々利用       しやがって……」 ○電話のやり取り ひさし「篤、おれあの街出るわ」 青年篤「そうか……いや、     おれも引っ越し考えててさ」 ○電話のやり取り 青年篤「制作会社か……。確かにな。     そういう産業は育たねーよな。     うん。そうだな。でも     ちょっと面白いかもな」 ○電話のやり取り 青年篤「あ、ひさし?」 SE・アナウンス「ただいま留守に          しております。         御用の方は発信音の後に         メッセージをお入れ         下さい。ピー……」 青年篤「またか……」 ○電話のやり取り   ひさし「もしもし?篤?」   青年篤「ひさし?おまえどこ       行ってたんだよ!?」   ひさし「後つけられてたんだ」   青年篤「誰に?」   ひさし「この電話も聞かれてる       かもしんね」   青年篤「何言ってんだよ?」   ひさし「また電話する」       ブツ!プー、プー、プー…… SE・電話の呼び出し音(会話の間に長い沈黙)   ひさし「もしもし……」   青年篤「はい。……どなたですか?       ……ひさしか?」   ひさし「うん……」   青年篤「今どこ?」   ひさし「それは言えない」   青年篤「言えないって……」   ひさし「久々におまえの声聞けて       安心した」 ○長い沈黙   ひさし「高校の頃さ……       山にキャンプ行ってさ。       鮎の塩焼き食いながらビール       飲んだよな……」   青年篤「あ?ああ……」   ひさし「あれ、うまかったよな〜」   青年篤「そうだな……」   ひさし「忘れられねーよ」   青年篤「うん」   ひさし「おれさ。       絶対自殺はしねーから」   青年篤「おまえ……何言ってんだよ!」   ひさし「おまえにだけは伝えて       おきたかったんだ……」 ○再び長い沈黙   ひさし「……言えねーってなんだよ!       おい!」   ひさし「じゃあな」 SE・ブツ!プー、プー、プー、電子音が大きくなっていく。      ●再び木の下 篤  「おい!ひさし!ひさし!」 女医師「あの……ちょっと?ちょっと?」 篤  「ひさし!ひさ……え?     あなた……さっきの……」 女医師「……うなされてました」 篤  「あ……。あ〜…… あはははは。     いや〜、びっくりした!     夢の中で妖怪に追いかけられるわ     地震は起きるわで、もう大変でした     よ。あ〜、夢で良かった!」 女医師「ほんとに大丈夫ですか?     うなされかたが、     なんて言うか……」 篤  「だって!そりゃ、妖怪ですもん。     いや〜、ありえなかったわ〜!」 女医師「あの……お薬とかちゃんと     飲んでます?」 篤  「いや〜、大丈夫です。どうも。     すみません。どうも。     あ〜びっくりした。それじゃ!     失礼します!」 女医師「ちょっと……」 SE・杖で移動して、だいぶ経って 篤  「ふ〜……。     ひさしぶりにあいつの夢見たな…… 変なとこ見られちゃったし…… 喉からからだ……。 6時か……。このへんたしか     焼き鳥屋あったよな?」
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