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 僕は続く言葉が分かって、彼女が何を考えているのかが分かって、どうして今までこの可能性に目を向けなかったのだろう、と馬鹿みたいに思った。  気持ちを伝えて失敗したらこの関係は終わってしまう。恋人だったらもし終わりが来た時、もう二度と会えないような関係になるかもしれない。そうじゃなかったらずっと続くだなんて、どうして思っていたのだろう。  一歩前に進まなくても、恋人になんてならなくても、ずっと続く保証なんてなかったのに。 「今までありがとう」  笑った彼女はやっぱり綺麗で、優しくて、彼女がくれた温度そのものだった。  彼女は分かっていた。僕も、分かっていたのかもしれない。  だって、だから寂しかったのだ。彼女と僕は別々の人間で、ずっと一緒にいる絶対なんてありえないと知っていた。だから一緒にいるその瞬間が愛おしくて、彼女の体温が確かめられることが嬉しい。  電車もある。新幹線も飛行機も、バスも車も。一日あればたいていのところには行ける。電波さえ繋がれば毎日だって連絡が取れる。毎日顔が見られる。遠くなんて、ずっと簡単に乗りこえられる。  でもそういうことではないのだ。  いつだって会えることと、近くにいることは違う。会えないことと距離が離れていることは違う。この関係では、この先に進めない。  だから彼女は決めたのだ。  けれどどうして僕の気持ちまで決めてしまうのか。僕は口を開いて、でもそこからは息しか出なかった。  言葉ならたくさん知っている。それなのに何一つ出てこない。焦れば焦った分だけ喉がしまって、呼吸さえもままならなくなる。  早くしないと。今しかないのに。  その思いだけで顔をあげると彼女の目が見えて――僕は、彼女を抱きしめていた。  彼女がわずかに身じろぐ。それでも僕は構わなかった。この布も皮膚二枚も、こえて全部、届いてほしかった。  三分の一じゃない全てを。彼女の目の中に、僕と同じ心が見えたから。  彼女の腕が戸惑って、握られたこぶしがかすかに僕の足に触れる。 「三城さん」  あなたに言うんだから、ちゃんと受け取って。  僕は息を吸って、見つけたたった一つの言葉を口にした。 「好きです」  息をのむ音が聞こえて、一拍。耳元で空気が震えて、彼女のこぶしがほどける気配がした。
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