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 その日の僕は、なかなか寝つけなかった。気がたかぶっていたのでも枕が変わったからでもない。それらもスパイス程度には効いていたのかもしれないが、ただの普通の眠れない日だった。  そういう日は今までにもあって、積もってしまった色々を思い出しては後悔したり、生死や存在意義という見えない答えに怖くなったり。どうしようもないことをぐるぐると考えて、真夜中を過ぎて一時間二時間三時間、睡眠を訴える身体が頭に勝って、闇の中に吸い込まれていく。  たまたまそんな日だっただけで、その日がそういう夜なのだと、僕は布団に潜ってから気がついた。彼女の邪魔をしないように息を殺して、こっそりと背を向ける。背中の側がぬくもって、何となく一人でないことにほっとした。しかし眠るには至らずに、僕はしばらくして仰向けになる。すると不意に、横からTシャツを引かれたのだ。  僕は驚いて、それからゆっくり彼女をうかがった。開いているのかいないのか判然としないまぶたで、けれど意外にもしっかりと布は伸ばされる。  寝ぼけてる? 僕が身体ごと彼女に向かうと、彼女はもそもそと動いて、僕にやんわりと抱きついてきた。 「、三城さん」  これはいかがなものだろうか。僕はおそるおそる、触れるくらいの力で彼女の肩を叩いてみたが、彼女はまるで構うことなく身体をぴたりと寄せてきた。  じんわりと彼女の温度が伝わってくる。なんとなく、ではなく確実な温度と存在。  さんぶんのいちだけ。  ふわふわとした声が、耳から頭に流れ込んでくる。 「ストレスのね、さんぶんのいちくらい、なくなるんだって」  彼女が何を言っているのか、どういう意味なのかを考えられたのは翌朝で、その時の僕は心が居場所を見つけたような安心感にくるまれて、するりと眠りに入ってしまった。
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