ナキムシ

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「聞いてないよ俺……」 「ごめん。言うの遅くなっちゃったね。」 「遅くなったんじゃなくて、言えなかっただけじゃないの?」 彼女はその問いには答えてくれなかった。 ただ、静かに笑っているだけだった。 どうしていつも悲しい時に笑うんだ。 嬉しい時はすぐに泣くくせに。 彼女の顔が見ていられなくて、覆い隠すように思い切り抱き締めた。 ぎゅっと、ぎゅうっと。 嫌がったって離さない。離してなんてやらない。 「背、おっきくなったね。あんなに小さかったのに……。」 「何年前の話してるんだよ。もう子供扱いするな。」 「16歳はまだ子供だよ。」 「……じゃぁ、後2年だけ待って。卒業するまで待っててよ。」 優しい声が、俺の背中を撫でる手が 止まった。 「ごめん。待てない。」 「どうして……」 「待っても、年の差は縮まらないんだよ。」 「年の差なんて……そんな事で……そんな、どうでもいい事で……他の奴と結婚すんのかよ……」 「そんな事……そうね。遊(ゆう)くんにはそうなんでしょうね……だけど、私にとっては……」 彼女の声は震えていた。 震えて、どんどん小さくなっていった。 「俺は伽耶(かや)ちゃんを誰にも渡したくない……ずっと一緒に居たい……」 「今までずっと一緒に居たじゃない……もう十分だよ……私はそれだけで十分なんだよ。」 「嘘だ……」 彼女の手がさっきからずっと背中に触れていないのを気付いていない訳じゃなくて。 微かに震えている肩も、涙を堪えるようにぎゅっと唇を噛んでいる事にもちゃんと気付いている。 もう、何を言ったって…… どうにもならないのかもしれない。 だけど…… それでも抱き締めた。彼女の分まで。 ぎゅっと。ぎゅうっと。 このまま身体が溶け合って、消えてしまえたらいいのに。 そうしたらずっと、ずっと一緒に居られるのに。
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