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手に入れたのだから試してみよう
俺はその日から痛みが和らいだ…。
_____
「ふぁぁぁ…」
俺はその日も夜遅くまで会社に居残り、とりとめもなくはかどらない仕事を一旦放棄して帰路につくことにした。
「明日もおんなじ風が吹くっと。ランランラン~」
俺はどこかに頭が吹き飛んでくれないかと思いながら、自棄になって鼻唄を奏でる。
いつもの裏ルートを軽快に進み、終盤の角を曲がろうとしたとき…ソイツはいた。
「うっ…うわっぎゃぁ!」
いつもは何もない場所に静かに鎮座している怪しさ満点の婆さん。
変な声を出すのも仕方がない。いやだって、完全に違和感そのものだから。
「…び、びっくりしたなぁ。もぉ、どうしたんですか?こんな夜分遅くにこんなところで…お家はどこか分かりますか?」
失礼極まりないが、認知症による無断徘徊と決定づけた俺は婆さんに自宅の目印などを聞こうとした。
が、しかし!
「お客様は人生に息が詰まっておるご様子…そんなお客様にいいものがありますよ。」
うっ…むぐっ。なんなんだこの婆さんは不幸占いを餌に得体の知れない高額の幸運グッズでも売り付ける気なのか…いやいや、騙されませんよ。ありきたりなそんな商法に誰がのるもんですか!
「たった100円でお客様の人生痛が和らぎますよ。」
ズコォ!
俺は不覚にも金額の安さにびっくりして、後ろに倒れてしまった。新喜劇さながらの驚嘆リアクション。
「や、安いですね。缶コーヒー一本我慢すれば買えちゃいますねー。ち、ちなみにどんな商品でしょうか。」
婆さん寂しそうだし、なんか安いし、商品拝見して騙されたつもりで買ってあげようかなと思い、俺は尋ねた。
「はい、これがお客様にピッタリの商品となります。」
薄暗がりの中、さっきまではよく見えてはいなかったが…点滅する電灯の灯りを頼りに、婆さんの前にある木机の上面を確認すると…
『ふしぎな光線銃』
…と商品札が掲げられており、その横にはSFアニメで出てきそうな近未来型のおもちゃらしき光線銃が置いてあった。
「えっ…昔懐かしの…。」
ゴクッ。
無邪気なあの頃を思い出して、元気を出せというメッセージなのか。。
コトンッ。
俺は財布から100円硬貨を取り出し、婆さんの前に置いた。
「お買い上げどうもありがとうございます。」
「この…ふしぎな…という意味はどういうことですか?」
「それは、お客様自身で確かめてください。くれぐれもむやみに人間に向けてはいけません。」
………
俺は家に帰るまで、そのふしぎな光線銃といわれる代物のトリガーは引かずに、鞄に入れたままにした。おもちゃの光線銃を撃ち鳴らす姿を人目に晒してしまったら恥ずかしいということもあったが、本当は不思議な感覚に囚われてしまったからであろう。
「あの…婆さん。あの後、自販機のジュース奢ってやろうと思って、買いに行って戻ったら忽然と消えて居なくなるんだもんなぁ…。なんか、恐いなぁ。。」
俺は鞄の中から例の光線銃を取り出した…。
「まずは、とりあえず撃ってみようかな。」
ゴクッ。
俺は当たり障りのない標的として、缶ビールを選んだ。
なぜ、こんなおもちゃの光線銃のトリガーを引くぐらいで、、ドがつくほどの緊張感を味わないといけない…。
覚悟を決めた!
右手の人差し指に少しだけ力を込め、トリガーを奥に沈めていく…だけなのに、この手汗の量はなんなんだ…。。
ガチッ。
『プシシシシシ―ッ』
…………………………………
子供が喜びそうな音とともに、光線銃の先が七色に光った。
ただ、それだけだった。
何も変わらない日常。
俺は急に力が抜け、横たわってしまった。
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