遺跡へ

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遺跡へ

翌朝はすっからかんとした良い天気になった。 青空が抜けるように高い。 遺跡のある隣町は降りる人も乗る人もいない、そんな寂し気な駅だった。 ホームから出ると、シャッターの閉まった商店が並んでいる。 ヒロシ君がインターネットで地図を出してくれて、 それを見ながら進んだが、目印になるお店が見つからない。 散々うろうろさせられたが、目的になる場所のヒントすらなかった。 「コイツは・・まいったね・・。まるで化かされているみたいだ。」 珍しくヒロシ君が弱音を吐いた。 道を聞こうにも、人通りが全くないのだ。 僕らは困り果てた。 車道と歩道の間にはガードレールがずっと続いている。 その歩道は人がひとり、やっと通れるくらいだ。 その時、目の前に背の低い四〇代くらいの、 (あね)さん(かむ)りをしたおばさんが現れた。 唐突(とうとつ)だったがここで聞かないと大変と、僕は慌てて声をかけた。 「すみません!道に迷ってしまったようなのですが・・。 この先の遺跡を見に行きたいのですが、どう行けばよいかわかりますか?」 おばさんはにっこりして、 「この脇の道を入ってまっすぐ行って 道が二つに分かれたら、左の道を行くの。 上の方に看板があるから解ると思うわ。」 と優しく教えてくれた。 僕らが揃って礼を言って頭を下げると、手を振って僕らとすれ違った。 ふいに目の前に現れたから驚いたが、脇道なんてあったんだ・・。 「助かったね!あの人のお陰で・・あれ?」 トオル君が振り向いて、声を詰まらせた。 「どうしたの?」僕も振り向くと、トオル君の驚きが解った。 今すれ違ったばかりのあの女性がどこにもいない。 僕らが進んできた道は一本道で、脇道などない。 それにしても・・今すれ違ったばかりだ。 「どこに・・行ったのかな・・?家も道もないのに・・。」 ヒロシくんも後ろの道に目を配っていたが、首を振った。 「どういう・・事だ・・?」 トオル君がもう青い顔になっている。 「怖そうなおじさんだったけど、親切だなぁと思ったのに。」 えっ!? 僕とヒロシ君が顔を見合わせた。 「いやだなぁ。四〇歳くらいのおばさんだったじゃないか。」 僕が言うと、ヒロシ君が眉間にしわを寄せた。 「僕は高校生くらいの女性に見えた。」 アキオ君は小さな声で言った。 「お兄ちゃんたちくらいの男の子だったよ?道を教えてくれたの。」 僕らは顔を見合わせた。 「道は、脇に入って二つに分かれたら左、だよね。」 ヒロシ君が言う。 僕らはうんうんと頷いた。 「ここにいても仕方ない。行ってみよう。」 ヒロシ君が遂にそう言って進みだした。 「こんなことって・・・あるのかなぁ・・。 みんなが違うものを見たなんてこと・・。」 トオル君がまだ青い顔をしている。 ススキの揺れる道を進むと、二手に分かれ、僕らは左側に進んだ。 と直ぐに遺跡の看板が目に入った。 「悪いものじゃなかったようだね。」 僕がホッとして遺跡に続く階段を上った。 「そうだね。困っているのに気づいて助けに来てくれたみたいだ。」 トオル君も安心したのか、ようやく笑顔になった。 まるで(たぬき)にでも化かされたようだが、 僕らはようやく目的地に辿(たど)り着いたんだ。
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