合理的なこと

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合理的なこと

 初冬、風邪の季節。  ハロウィンが終わって年末商品が店に並んだ。  女性のファッションではモスグリーンにボルドー、桜ピンクのアクセントをつけるのが流行している。  しかし雪穂は街を彩る流行色を楽しんでいる場合ではなかった。  土井耳鼻科受付長の工作により何度も風邪をうつされた結果、喘息発作を起こしてしまった。  受診をやめるわけにいかない。  雪穂はなるべく風邪の人に囲まれないように、午後診察の三十分前から並んだ。  普通院内で一時間待ちだが、午後診察の三十分前に並べば、待つのは院外となるし、院内に入ればほぼ一番に呼ばれる。  雪穂が院外に並んだ直後に、マスクをつけない女性インフルエンザ予備軍患者が現れ、ぴったりと雪穂の後ろについた。  集団ストーカーの工作だが、待ち時間が短ければうつされずにやり過ごせるだろう。  診療所のドアが開いて午後診察が始まった。  院長が一人で切り盛りする時間帯らしい。  花田が待合室に呼び掛けた。  「男の先生の患者さんお呼びします。中山さん、桐谷さん、友井さん、中待合室にお入りください」  雪穂は結局、マスクなしインフルエンザ予備軍患者と一緒に中待合室に入ることになる。  そんなことだろうと思ったので、飛沫を飛ばしている友井と並んで座る気はなかった。  中山と友井が座席に着くが、雪穂は離れて立ち待ちしていた。  それが花田の目に留まった。  「田中さん、中待合室にお入りください」  また花田の独断による、例外呼び出し。  土井耳鼻科の方針ではありえない。  禿げた小太りの中年、田中もマスクをせず、ひどい風邪飛沫を飛ばして中待合室に入ってきた。  田中は前列の友井の後ろには並ばなかった。  友井とはるかに離れて、中待合室長椅子の最後尾の場所を陣取った。  訊ねられればガラガラに空いてるならいいと思った、と主張するつもりだろう。  彼も工作員だ。  これで雪穂は中待合室の細長い空間で、右に逃げても左に逃げても風邪か、インフルエンザをうつされることになった。  工作員によるインフルエンザサンドイッチ。  雪穂が青くなった時だ。
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