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「He took a picture of me!」 「Secretly?」  彼女はブロンドの髪を振り乱して激しく頷く。目に涙を溜めて。  正木芽衣は頷き、目の前の男にニッコリ微笑みかけた。「そのスマホ、渡してもらえます?」 「何なんだよ、一体。その女だって、いきなり英語で怒り出すし、何言われてるのか解らねーー」  口答えする男の手元から、スッとスマホが消えた。隣に座る和泉秀が、素早く取り上げたのだ。その手さばきはまるでマジシャンのような早業だった。 「ちょーー、何するんですか。俺、写真なんか撮ってないですから」  男はスマホを取り戻そうと手を伸ばすが、和泉の素早い動きについていけていない。それに、相手が男に変わって明らかにトーンダウンしていた。  和泉は男をかわして立ち上がり、勢い余った男はそのまま床に転がる。和泉は男には目もくれず、女性に向かってウインクを寄越した。 「ドントウォーリー、ビューティフルガール。アイム、ポリスマン!」 「Sorry.Please don't worry.We are police officers.Arrest him」  芽衣が流暢な英語で語りかける。彼女は張り付けていた緊張の糸が切れたように、涙を流し泣き出した。そのまま芽衣の肩に身体を預け、芽衣はそっと彼女を抱き締める。  和泉は床に転がっている男を見下ろし、「なんて下品なことをするんだ」と言い放った。 「男の風上にも置けないね。って言うか、同じ男性だって認めたくないね! 恥ずかしいよ!」  突きつけられた警察バッジを穴が開くほどに見つめる男の顔色は、先程までの怒りの赤から、一気に蒼く変わっていった。 「ちょっと待ってくださいよ」と男は手も頭もぶるんぶるんと振り乱す。 「俺、何もしてないですって」 「そんな言い訳が通用すると思ってるのかい?」 「いや、だって、その女がーー」 「きみ、その下品な物言いはやめたまえ! そもそも、きみ、英語解らないのに、どうして、盗撮で責められてるって解ったんだい?」 「いや、それは、」 「いいよいいよ、男の言い訳なんか聞きたくもないね。やましいところがあるから、無意識に口をついたんでしょ。それ、自供同然だから!」 「じゃあどこに証拠があるんだよ! 画像があるってのか?」  男は開き直ってわめきたてるが、「あるよ」と、和泉に一言で一蹴される。 「ーーへ?」 「ちゃんと本体から消したつもりだったんだろうけど、クラウドにバックアップが自動保存されてるよ? 設定、知らなかったのかい?」  問答無用。和泉は男に手錠をかける。うなだれる男を乱雑に床に転がし、和泉は立ち上がって二人の女性にウインクを投げた。 「いやあ、驚いたね! 乗り込んできたら、いきなりこの騒ぎだもんね。せっかく芽衣ちゃんとのデートだったの」 「デートじゃありません、仕事中ですよ?」  和泉の台詞に被せるようにきっぱり、芽衣は被害女性を抱き締めながら訂正する。 「なんだよ、ちくしょうーー」男は床でぶつぶつ呟いていた。 「見えてるから撮っただけじゃねえか。減るもんじゃねえし、触ったわけでもないし、この程度のことでよぉ」  次の駅が近づき、電車がスピードを落とす。  和泉は男を見下し、「きみには見えなかったんだね」と冷たく言った。 「彼女の傷ついたハートが、ね」  電車が駅へと入っていく。  プラットホームには、小柄な身体に褐色の髪のポニーテールの女性が佇んでいる。 「私たち、別件の捜査中なんですけど」芽衣がニッコリ微笑んだ。 「ウチの主任、目の前の悪人は絶対に赦さない人ですから。厳しく調べてもらいますね」  自動ドアがーー否、男にとっての地獄行きのドアが開く。
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