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1.
「メリークリスマース!」
「ちょ、父さん、ここ病院だから。しかもまだ早いし」
唐突に父が快活でしゃがれた声をあげるものだから、私は思わず口の前に人差し指をたててシーッとやりながら注意してしまった。
息子の大樹を連れて父の入院する病院にお見舞いに来たのは12月の初め──1日の午後だった。幼稚園の帰りだったので、大樹は園服を着たままだ。
病室は大部屋で、父のベッドは窓際。カーテンで仕切られたそのプライベートスペースには母の姿もあり、母は私に椅子を勧めてくれたが、遠慮した。
するとすかさず、大樹がちゃっかりと座り込む。それを見て「椅子取りゲームじゃないんだから」と窘めるように言うと、父も母も笑った。
大樹は父の寝るベッドの布団の滑々とした感触を撫で、父と少しだけ手を繋いだ。あまり感情を表に出さない子だが、温和でひょうきんな所もある父の前だとほんのりと穏やかそうなのが見て取れる。
メリークリスマス。コミカルな掛け声と共に父がそれをベッドサイドキャビネットから取り出して大樹に手渡したのは、私たちが到着して一息ついた頃だった。
大樹は緑と赤のラッピング袋からびろんと取り出した布製のそれを見て、興味津々に目を丸くする。
クリスマスツリーの形をしたフェルト地。
オーナメントに見立てたいくつかポケットには数字が書かれている。ウォールポケットのような形状だ。
「アドベントカレンダーっていうらしいわよ」
すかさず母が言った。
「アドベントカレンダー……」
耳馴染のない言葉だったので、私はぼんやりと呟くしかなかった。
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