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ダレニシヨウカナ
いわゆる「心霊スポット」と呼ばれる場所が苦手である。
「怖い話を書いているんだから、そういう場所にもよく行くんでしょ?」
周りからは、そんな風に思われているようだがとんでもない。極力、避けたい。可能な限り、距離を置きたい。それは、友人が体験した、いや今も進行中のとある出来事が、ひとつの理由だと言えるだろう。
高校の同級生である文恵と再会したのは、卒業二十周年を記念した同窓会の場であった。学生時代は、華やかで目立つグループにいた文恵とはほぼ接点がなく、話す機会も少なかったのだが、同窓会の席でお互い十年以上同じバンドのファンであったことが判明し、一気に距離が縮まった。それからは、バンドのライブに一緒に行って飲んだり食事をしたりと親しく付き合うようになり、お互いの家庭の話、時には学生時代の思い出話を懐かしく語った。
その夜も遅くまで、私と文恵は昔話に花を咲かせていた。
「あの頃の文恵は近寄りがたかったなぁ。いつも、いかつい男子をはべらせて派手な遊びをしていたからね」
「そういうあんただって、『貴方たちみたいなバカとは付き合えません』みたいな顔でこっちを見てきて、怖かったんだからね。お互いさまでしょ?」
二十年という月日が、思春期のころの何かととんがって突っ張り合っていたあの頃の自分たちを、丸くしてくれたのだろう。互いの過去を笑い合えるようになったのも、嬉しかった。
「でも……、確かにあのころは、調子に乗ってバカなことをしすぎたかも知れないな」
それまで面白おかしく昔の話で盛り上がっていたのに、文恵の声がいきなり暗くなった。
「いわゆる『若気の至り』ってやつでしょ? そんなのは誰にでもあるよ」
今の言葉でいえば「黒歴史」か。思い出すだけで赤面するような、穴があったらはいりたくなるような、そんな思い出のひとつやふたつは誰にだってあるはずだ。
「そんな思い出の全部が、笑い飛ばせるような話ならいいんだけど……」
思わせぶりに言葉を濁す文恵の様子に、いったい彼女は何をそんなに後悔しているのだろうかと考えた。煙草? 飲酒? さすがに今更それはさほど悩むことではないだろう。だとしたらドラッグ? 援交? 若気の至りと呼ぶには、ヘビー過ぎる過去を告白されたらどうするべきか、などと思いを巡らしていると、
「……実はずっと、引き摺っていることがあるんだよね。聞いてもらえる?」
少しの沈黙のあと、文恵がそう切り出した。見たこともない真剣な友の表情に、私は膝を正して頷かざるを得なかった。
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