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第28 ミア、おめかしするよ
雨上がりの休日の朝、ミアは早くから家の用事を済ませようと奮闘していた。
一人暮らしもやる事が多い。溜まった洗濯物を洗って干し、台所などの水場を清潔にする。ゴミを捨てる…。
幼馴染のロゼに誘われて、苦手な集団行動……。冒険者パーティーに関わってしまったため、自分の時間が取れなくなっていた。
「結局、ガイさんのパーティーを抜けられないまま……だよね」
昨日、ミアを襲撃したジャレグは、森の外で雨に濡れて目を覚まし、ガイに忠告された。「次は簀巻きにするぞ」と。
ガイが笑いながら言ってちっとも怖くなかった。ジャレグが本気で怯えてたのは、ロゼの脅迫だった。ギルにまた請求書を突きつけられてた。
ギルが「パーティーを続けた方が安全だよ」と、ミアに言った。その通りには聞こえず、ミアにはそれが「やめさせないよ?」と聞こえる。嫌がらせを繰り返してきたジャレグまでやっつけちゃうと……外堀を埋められている気がする。
ギルは何を考えてるのか、分からない。冒険者ランクを上げる気もないし、レトナークに慣れるとクエストに行くのも半分観光気分が出ている。
ミアは、パーティーから抜けなきゃならない理由を失いつつあった。
「うーん。家にいる時間が少なくなって、自分の家じゃないみたい……」
保存食はそこそこ在庫がある…が、作り置きは出来ない。採ってきた薬草は下処理をしたまま増える一方だ。
「今日こそは…」と、ミアは忙しい。
今日はやっと、丸々1日休める日だ。
ロゼに、ガイの仕事の見学に付き合わないかと誘われたが、断った。ミアには、今日こそ久々に行きたい場所があった。
「うーん、どれを着て行こうかなぁ…」
ミアは、ベッドの上に、真新しい服を並べる。
ロゼがミアを連れ回して買った服……真新しいのは、殆ど着ないからだ。
普段は着ない、今流行りの女の子らしい服を選ぶ。
「買ってもらったのに、ロゼにこっそり着てるなんて、本当はいけないよねぇ……」
鏡の前に自分の立ち姿を映す。外食が増えロゼに食べさせられて、痩せ過ぎと言われてたのが気にならないぐらいになっている。
メイクはロゼに教わっている。教わっているというより、泊まると着せ替え人形をさせられている。
「こんなものかな?なんか、仮装みたいかな……」
鏡に向かってニコッとしてみたりポーズをしてみたり、女の子らしい振る舞いをしては、らしくない気がしてため息をつく。
「だ、大丈夫……!」と、気持ちを奮い立たせた。
ミアは家の周りに人気がないタイミングを見て、コソッと飛び出す。
外は、眩しくて、大きなつばの帽子を選んだ。
ミアは、大きく息を吸って、初夏を味わう。
家々の窓辺には鮮やかな花を咲かせる植木鉢が並んで、通り過ぎるミアの目を潤した。
今日も運良く知り合いに会わず、何とかレトナークの中心街、大通りまで出る事ができた。
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