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第25話 ジャレグ、ゲロっちゃう
ミアを負傷させ、魔石を破損させる事件を起こしたジャレグが、冒険者ギルドに仲間を連れて訪れたのは事件の翌日の朝だった。
あれだけの事をしても、ジャレグはまだミアが黙って我慢すると思い違いしていた。
依頼受注の受付では、ナサリーが待ち構えていた。受付を済ませた仲間の1人が、ジャレグに断りを入れた。
「ジャレグ、お前、何したんだ?ペナルティーで、お前の参加はさせられなくなっている。悪いが、お前はお払い箱だな」
「はぁ?まさか」
ジャレグは窓口のナサリーに詰め寄った。
ジャレグの仲間達は、さっさとジャレグを残して去って行ってしまった。
「はい。確かに、昨日、ジャレグさんへの依頼妨害の被害届けを受理いたしました。過去の苦情を含めたペナルティーとして、このレトナークでは向こう3ヶ月は受注もパーティー参加も出来ない事になっています。」
ナサリーは業務上と言わんばかりに丁寧に受け答えした。
「俺、何もしてねぇよ。誰だよ、被害届け出したヤツは!」
「ガイさんのパーティーメンバー、ギルさんですね。それと、まだお預かりしているものがあります。こちらを確認していただき、預り書に受理したというサインを下さい」
焦るジャレグに、淡々と冷たくナサリーが応えた。
「なんだよ、これ?損害賠償請求?あれ、ワイバーンのだったのかよ!……あっ」
「(あれって、言っちゃったわ)……そういうことです」
うっかり、請求書に書かれていた魔石の元の魔物の名前に反応して、ジャレグはゲロってしまった。
「こんな額、払えるわけないじゃないか!」
ジャレグは唸った。
「ジャレグさん?こちら、損失した分だけの請求でかなり良心的ですよ。期限も考慮されていますし。ですが、こちらのリンジャー商会はリンド王室御用達を扱う由緒ある商会です。不義を働いたら、商業ギルドに裁判にかけられちゃいますよ?」
「いやいや、知ってるわ!あのリンジャー商会が昨日の今日で請求書出せるわけないだろうが!だいたいなんで、リンジャー商会が絡んでくんだよ?」
ジャレグは納得いかずカウンターを力任せに叩いた。フロアーにその音が響き渡った。怯まずナサリーが一息入れて説明した。
「こちらに、リンジャー商会の押印がありますから、用紙は公式のものではありませんが、立派な効力がありますよ」
「はぁ?押印?そんなもの持ち歩いているヤツでもいなきゃ間に合わないだろうが!」
「ですね。この場で押して行かれましたよ。ギルさん」
「そんなヤツがなんで冒険者なんだよ!」
ジャレグが、押印とギルの名のサインを苦々しく確認した。押印は、洗練した意匠の紋章を精巧に彫られているものだ。
ひと月ほど前からガイが連れてきた、冒険者らしからぬやたら見栄えの良いギルという男。何処かの御曹司ってイメージで注目を集めていた。ジャレグ達からしたら、領主の娘のロゼと華やかなメンバーを揃えて次々と高額の依頼を達成して目障りなぐらいだった。
「あの、優男!!」
ナサリーは、言い放つ。
「ジャレグさん?ミアさんへの嫌がらせの数々、ミアさんが我慢して黙ってくれていたのは、何故だと思います?お友だちのロゼさんに話が行けば、ハワゼット家のブラックリストに載って、レトナークに居られなくなります。度が過ぎましたね。ケンカを売る相手を間違えたんですよ?」
ジャレグが怒りに興奮してワナワナとしていると、ナサリーが構わず続けた。
「はい、こちら預り書の受理欄にサインしてください。この請求書を反故したら、ご実家のご商売にも響きますよ?気をつけて下さいね」
「俺はやってねぇよ!」
ジャレグは食い下がる。
「……私が証言してもですか?」
ナサリーは、ペンをジャレグに差し渡した。最後のカードを突きつけられて、ジャレグは観念し、震えながらサインをした。
「くれぐれも、変な気を起こさないでくださいよ」
と、ナサリーは、立ち去るジャレグに忠告をした。
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