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第27話 一体につき金貨一枚だよ
ミアがジャレグに落とされたのは、モンスタースポットだった。茂みの奥から、魔物の群れがミアに向かって集まっていく。
魔物は、狼の姿をした、ダイアウルフだ。
巣営地を荒らされ、唸り声をあげる。
その様を上から見下ろすジャレグは、せせら笑った。
「魔物に食われてしまえ!」
ジャレグが、モンスタースポットにいるミアに罵声をあげた。Cランクと言っても最近まで採取メインのソロ冒険者。ハイクラスのパーティーでは戦闘力を必要としない。ジャレグにはミアがダイアウルフにやられるのが想像出来た。
「お、ま、え、が、な!」
突然、ジャレグがボールのように跳ね飛んだ。こっそりと戻ってきたガイがジャレグの背中を蹴り、ジャレグはミアを超えてダイアウルフの群れの目の前に落ちた。
「うぎゃあぁあ!!!!」
ジャレグは、体勢を取れないまま地面に落ち、激しい痛みで立ち上がれない。
「ジャレグ、そこでミアを助ける囮になれるか?」
ガイが、ジャレグを揶揄う。
「か、勘弁してくれ!」
ジャレグは目も鼻もぐちょぐちょになった。
「ミア、どうする?」
ギルが崖の上から問いかける。
「うん。じゃ、一体につき、金貨一枚で良いかな……」
「それは、良心的だね」
ギルも戻って来ている。
「何の話だよ!!助けてくれ!!」
「お前が払う金だよ。ジャレグ」
と、ガイが言った。
「ミア、やっちゃえーーー!」
と、ロゼが声援を送ると、ミアが剣を抜いてジャレグの前にスッと出た。湿った落ち葉を踏みしめ、身を屈め構える。
ミアの剣は斬るよりも刺して断つ。間合いを詰めてくる一体のダイアウルフを、最小限の動きで急所を突き仕留めた。
一体目やられたダイアウルフの群れは唸り声を抑えながら、次の一体がミアに向かっていく。
ジャレグはミアの俊敏な動きに目を見張った。
小柄で弱々しいと思っていたミアが、モンスタースポットで一人怯まずダイヤウルフを倒していた。
「こんなに……強かったのか?チビのくせに……」
何頭か倒すと、ミアの方からダイアウルフ達ににじり寄り、その群れのボスに対峙する。
ボスだけあって、一際大きい。
ミアが小柄なだけに、対峙すると差がありすぎる。
ついにボスがミアに向かって突進すると、ミアは高く飛び上がった。ミアの脚に牙を向けるボスの口をミアは身を翻し鼻先を超え、背後を取ると骨の隙間を狙いその頚椎に剣を突き立て、そのまま背を蹴り飛び降りた。
ダイアウルフのボスは絶命しながらも、その勢いでジャレグにぶつかった。
「ぎゃあぁあぁぁあぁ!!!」
ジャレグは、衝突の衝撃で失神した。
ボスがやられたダイアウルフの群れは、後ずさって消えていく。ガイ達は、ミアのいる崖の下に飛び降りた。
「本気というか、平常心のミアは強いね」
ギルは、ボスに突き刺さった剣を引き抜いて、ミアに返した。
「ありがとう」ミアは剣を受け取った。
「全く、本当に、ジャレグはタチが悪いわ。ミアにストーカーするなんて。ギルドに報告する?それとも……」
と、キレイな輪郭に指を並べて、ロゼはニッコリとする。眉を上げて小悪魔な表情をした。
「ハワゼット家のブラックリストにでも入れてあげようかしら?レトナークじゃ、酒場どころか裏路地にも居場所がなくなるわよ?」
「ロゼ、それ怖いな。マフィアみたいだぞ」
レトナーク領は、近隣国より広い……ガイがちょっと引く。
「ミアに酷いことしたんですから、当然!」
「だから、それがあるからミアがジャレグの嫌がらせを黙ってたんだろ。ミアも優し過ぎだけどさ」
ギルがそういうと、ロゼが文句を言う。
「なにそれ、……ミアの事分かってます態度!?」
「いや、そういうつもりは……」
ミアに関してはロゼに余計な事を言うもんじゃないなと、ギルは思った。ミアへの独占欲が重い。
「で、この腰抜けジャレグどうする?どうやって連れて帰る?ギル背負ってくれる?」
ボスの下敷きになって仰向けに白目を向いているジャレグを見ながら、ロゼはギルにけしかけた。
「えっ?また俺?突き落としたガイで良いんじゃないか?」
ギルは、ロゼの当て付けにガイを巻き込むことにした。
「俺かよーーー!」
「森から出たら、代わるよ」
「いや、それ、森から出たら捨ててくって、やつだろ?」
「まぁ、そうかも」
「ギル、王宮出て性格が悪くなった!あんなに、あんなに可愛かったのに!!」
「郷に入っては郷に従えですよ。可愛いとかやめてください」
「郷…って、ロゼか……そこ学習したか」
と、ガイは気が言うとロゼは慌てる。
「違いますよ!ギルの性格が元々捻れてただけですって!」
「ロゼはなかなかの武闘派だもんな……」
と、ガイはロゼを揶揄う。
「えええっ!!!」
ロゼは美人を台無しにして動揺した。
3人のテンションにはついていけないと、ミアは倒したダイアウルフの魔石を取り始めた。
森を出る頃にはシトシトと雨が降り始めた。
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