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コウは宿の部屋で文献を読みながら、エターナル・メタルの鉱石をルーペで見ていた。そして力を得た貴石の自分のペンダントと見比べる。
「そっか・・力を得た貴石を支えられるのは
エターナル・メタルだけなんだ。」
ところどころ本に書いてあることを照らし合わせながら彼は研究に没頭した。
この鉱石の凄さはわかったが問題の鋳造加工法…。文献によるとリストンパークの代々の職人しかわからないものらしいのだが、オーキッド姫もどこまでエターナル・メタルのことを知っていたのだろうか。
彼女のメモ書きから、推測するに知らなかったからこそ調べていた体である。
ロディアーニの地方の山頂の洞窟(第八章・1項参照)にあるものがどうも怪しいとは踏んでいるんだけど…。この文献に書いてある「灼熱の高炉」っていうのがそうみたい。
その後の文献のページはよくわからないな…。オーキッドさんのメモもここから先書いてない。
オーキッドさん、城が壊滅状態でもこの文献だけは必死に持ち帰ったのかな?
ちょっと焼けた痕があるんだよね。
封印を解くものは全部で6人。
リーディの姉君フィレーン王女とゴードン老師が調べた感じだとそうらしい。
事実ペンダントの継承は古の末裔の子孫が受け継いでいるっていうけど、実際どうなのだろうか?必ずしもリストンパーク人の血を引いているわけでもなさそうだしね。
キャロルは妖精の長から古の巫女の血筋だって言われたとついこないだ言ってた。
二人で食事の準備していた時だったかな?
リーディの母上はスフィーニの女王様だし。王配である父上はどっかの国の
騎士だと彼は言ってたけど…。西の塔でレオノラさんとステラが対峙していた時に
居合わせた部屋で彼の父上の肖像画を初めてみたよ。髪の色以外は大層今の彼に似てたな。顔だちは女王様似だったけど、雰囲気はお父さん似なんだなって思った。
姉さんのお母さんは芸娘だったけど、あくまでリストンパークの城下で
踊っていただけで、どこのルーツなのかは知らないって姉さんは言ってた。
ただ、ペンダントが伝わってきたのは姉さんが未だ会ったことが無い父方の
方からだと聞いたのだと。
それでキャロルが妖精の長から言われたことと、自分の推測を合わせると。
古の勇者たちはそれぞれ世界に散って、このペンダントを受け継いできのだろうね。
だったら僕はどうなんだろうか?もしその職人の血を引いていたとしたら?
でも僕は清々しいほどこの鉱石について知らない。父もそうだった。
しかし父はこの鉱石で武器を作るのが夢だったんだ。
もしその血を引いていたら何らかの方法で知識を伝承されていたはずだけど・・・。
全くと言っていい程、知らない。
ここまで思考を巡らせて、椅子にもたれて彼は溜息をつく。
―話を戻して、そもそも鋳造の前にもまず、あの鉱石を砕くには一体どうすれば…。
すると扉をノックする音がした。急いで開けると、そこにはメイが居た。
「あれ?知らない街だとすぐどこかに行っちゃうのに珍しいね?」
「寒くってさー」
部屋に彼女が入るとジャスミンの香りが鼻孔をくすぐり、メイはコウのベッドに
横たわる。
スリットの入ったスカートから見える脚。自分の前だと姉はあけっぴろげだ。
悩ましい姿態に思わずコウは再び溜息を吐く。
「ステラは育った町だから珍しく駆け出して行っちゃったしさ。で、あんたは黙々と籠っちゃってるし。」
「頭の中ぐるぐるしてたんだ。なんか飲む?」
そう言いながらコウはお茶を沸かし始めた。
「なんかさぁ、ここらで私みたいな黒髪の人よく見かける。」
「確かにそうだね。」
「エストリアだとあまり見なかったのにさ。前にある人に言われたんだけど、隣国ベルヴァンドの人って黒髪多いらしいんだけど、私の父さんは北の大陸出身なのかなって。」
「そう・・・。」
メイはコウが淹れたお茶を啜って、さらに言い続けた。
「まぁ私の父のことはいいとしてさ、ステラあまり自分の家に長居したくなさそうだったよね。」
「・・・そうだね・・・今朝、うなされてたし。無理ないよ。この小屋からちょっと離れた小川の付近で魔性に襲われて、母上を殺されたんだから。彼女皆に心配かけまいと言わなかったけど姉さんの言うとおり、楽しかった思い出もあるこの街に早く移動したかったのかもね。」
「だね・・・。」
二人は一息ついて窓の外を見る。
ずっと曇りで北国の空だなとつくづく感じたのであった。
* * *
スザナの街は懐かしい思い出でいっぱい。
私は旅の大事な目的は忘れない様にと思いつつもつい昔、通っていた通学路を歩いてゆく。
今朝うなされた夢は、正直堪えた。
私の奥深くの懸念。もしかしたら・・・最初にリスナーに襲われた時、母さんは私を庇ってくれたんだけど。
自分のマレフィックの力が覚醒した時に、本当は私が母を巻き添えに殺してしまったのではないかと。
まざまざとそれを夢で見てしまったら、現実を突き付けられた気がして。いや、そうと確証があったわけではないけれど、本当に辛い。
だから、早くスザナに移動したかった。
いずれにせよこの街にも行くつもりだったけど早く最後の住処(すみか)から離れたかったの。
馬車ごと呪文で移動させるのはできるかどうか心配だったけどリーディがイメージ形成を手伝ってくれたので、連携でどうにか一瞬でここまで来られた。
そして宿を取って、情報収集と言うことで自由行動になったんだ。
皆気を遣ってくれたのかもしれないけど・・・。有難く私はこの通りまで
やってきて、大好きな飴屋さんの可愛い飴細工のショーケースに見入ってた。
多分学友たちは、学校を卒業した後それぞれの道を歩んでいるのだろう
そう想いを馳せながら。
そしたら懐かしい声がして、振り向いたらクラスメイトのフレイザーだった。
ちっとも彼も変わってない。夜久しぶりに集まるということだそうで私は夕方宿に戻った時に仲間に確認してOKが出たら行くと伝えたんだ。
するとフレイザーは不思議そうな表情をした。
「え?お前今先生と一緒じゃなければ誰かと居るのか?」
「あ・・・これも長くなるから、話せるときに。」
大切な旅だけど、何処まで話すかは別だし
立ち話できるような内容じゃないと思った。
「コンラッドも来るぜ?アイツもすっかりスザナの領主の若旦那だお前が来たらびっくりするし、喜ぶだろうな。」
―コンラッドも・・・?
懐かしい、まるで兄さんのように慕っていた旧友も来ると聞いて俄然私は、行きたいと思ったのだ。
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