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3
リーディはキャロルと一緒に街の広場に出ていた。
二人が一緒にいるのは珍しい。
「ステラ、今朝うなされてたわね・・・。」
「ああ・・・。滋養薬は飲んでるだろうか?」
「最近は魔力を放出する機会が無いから大丈夫そうよ。」
「ならいいんだけど。」
街の中心部の広場。その近くに教会がある。
途中まで一緒に歩きながら彼はキャロルと話していたのだ。
「キャロルはどうするのか?」
「これから教会へ旅の記帳をしてゆくわ。」
「わかった、じゃぁあとで」
リーディはキャロルが教会へ入ってゆくのを見届けてから広場の椅子に座った。それからふと思ったのだ。
―ステラがかつて出場した「カルサイト」募集の大会の優勝者って誰だったのかと。
ステラを探しているときは思いもしなかったけれど(ステラとの出会いが衝撃的過ぎて)優勝者はきっとベルヴァンドの騎士団カルサイトに入団したはずだ。
ステラの試合は確か・・・準決勝だった。
なのであと1組準決勝に出た組があり、どちらかの勝者が決勝不戦勝で優勝したはずである。
ステラにはまだあの大会で自分に一度会っていることはましてや仮にも彼女の命を救ったことすら言っていない。
いや、そうだからこそなんていうか・・・言うつもりもなかった。過去のことだし、恩着せがましい感じがして嫌なのだ。
今二人は想い合っているという事実だけで・・・今が大切であり十分だからだ。
では何故、今更俺はその優勝者が気になったかといえば・・・
―ここ数年ベルヴァントの良い噂を聞かないからだ。
父がカルサイトの長官を辞職してスフィーニの王配に就いた時は、ベルヴァンドとスフィ-二はまだ国交があった。身分違いの婚姻であれ軋轢は多少となりあったものの、婚礼の儀においてはカルサイト団長とベルヴァンド王も参加したと聞いていた。それを聞かされたのはまだ俺がずいぶん幼い時だったから
うっすらとした内容の記憶しかないけど。
しかし父が亡くなった時…今から4年前だ。厳密に言えばスフィーニが壊滅状態になり、姉と俺以外の王族は亡くなったあの頃。ベルヴァンドはその頃から閉鎖的になっており、ベルヴァンド国王も王族の葬儀に参列されなかった。
父はかつて尽くした祖国の王などからも軟弱な魔法の国に堕ちた者と嘲笑されていた。魔物から国を守れなかった情けない元長官だと。
心が壊れていた俺は、ただただ壊れた心の奥底では怒りがベルヴァンドに向いていた。父は俺を守ることを優先して城は守れなかったけど・・・城下は、国民は守ったのだ、と俺は叫びたかった、証明したかった。
しかし当時はそれを行動に移せるほどの気力が無かった。無念極まりない。
だからベルヴァントは俺にとって所縁の国といえども、遠い国なのだ。これも噂だとベルヴァンド王の様子がおかしくなったからだとか。
セシリオ曰く、軍事国家の王宛(さなが)ら王は屈強な戦士のような出で立ちで豪快な人だったそうだが、ここ数年で残忍な行動を取るようになったらしい。事実は不明だけど。
にしても、この広場はそのままだな・・・
特に変わったことはなさそうだし適当に店など回るとしよう―
彼は立ち上がった。目指すは街のちょうど北側の区域、数度の来街でここの近辺はまだ訪れたことなかった・・・。
* * *
ステラはフレイザーと一旦別れて、夕方に宿のロビーに戻ってきた。約束の時間が近かったのでキャロルとメイとコウは
既にそこで待っていた。
「みんな・・・あ、リーディだけまだなの?」
「そうみたいだね。」
コウが珍しいなぁと言った体で、答える。
「そっか・・・とりあえず急ぐから今言っておくけど昔の友人に再会して、町の北側のブロックにある酒場で
集まることになったの…もちろん夜中前には戻るけどいいかな?」
「お。旧友との再会ね。なんか情報得られるかもだしいいんでないかい?」
メイは同意した。
他の二人も行っておいでといい、リーディにも伝えておくと約束してくれたのでステラは微笑んだ。
「ありがと。」
彼女は笑顔で手を振って再び宿を出て行った。
その姿を見送りながらキャロルが呟いた
「リーディ・・・珍しく遅いわねぇ。」
* * *
一方、リーディは街の北側の商店などで、情報を仕入れられそうな店などを探していたが、見つからず・・・。そろそろ時間だと思い戻ろうとした時、小洒落た洋館のサロンが視界に入った。
瀟洒な佇まいに惹かれて思わず中を覗くと、美しい女たちが客を待ちわびていた感じだった。その中の一人の黒髪の女が彼を流し目で見つめてきた。
普段だったら目もくれず、無視するところだが、もしかしたら何かを知っているのでは?と直感した彼は、その館の中へ
入っていった・・・。
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