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僕とアキが過ごした時間は15年だった。長いようであっという間に過ぎてしまった。5歳だった彼女は20歳になった。
僕はおじいさんになってしまった。
散歩をした。
追いかけっこをした。
一緒に寝た。
雷が鳴ったら一緒に居てくれた。
ご飯をくれた。
たくさん抱きしめてくれた。
アキは僕にたくさんのありがとうをくれた。
「グリーン」
彼女が呼んでくれた名前が
僕の特別で誇りだった。
冬の寒い朝、僕は瞼が重くて重くてたまらなくなる。
アキの名前を呼ぶと、彼女はすぐに来てくれて頭を撫でて抱きしめてくれた。彼女は涙を浮かべていた。
僕はまた、アキ、と名前を呼んだ。彼女は返事をしてくれた。
僕は彼女を抱きしめたかったが、それはどうしてもできなかった。僕の両手には爪が生えていて、彼女より小さくて、手を伸ばしても、彼女を僕の体で包むことはできなかった。
「グリーン、ありがとう」
彼女はそう言って僕を抱きしめてくれた。僕はその言葉を聞いてゆっくりと瞼を閉じた。Time's upか。
僕は精一杯思い浮かべる。僕も彼女にたくさんのありがとうを伝えて抱きしめたかった。人間になりたかった。
出会った風景を思い出す。
少し小高い丘で、山の向こうに夕陽が沈むところだった。夕陽は丘の麓の川の水面を照らし、反射した光が僕たちの目に刺さって僕はなんども瞬きをした。今度は一度も瞬きをするものか、と思う。次は生まれたら、僕はダンボールに収まるような男に生まれることはなく彼女と同じ時間を過ごして、精一杯の力で彼女を抱きしめるのだ。彼女がグリーンと呼んでくれなくてもそれは構わない。
一度だけ抱きしめて、鳴き声ではなくちゃんとした人間の言葉で伝える。
たくさんのありがとう、を。
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