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「はる……」
私の隣に歩み寄ったナツの手が、私の手をそっと握る。
「俺のことなんか待ってなくてもいいけど……でも俺はいつか戻ってくるから」
声が低くなって、手が大きくなっても、つないだ手のあたたかさは変わらない。
「はるのこと、ちゃんと支えてあげられるような男になったら、もう一度ここに戻ってくるから。だから……」
ナツの声を聞きながら、あふれそうになる涙を必死にこらえる。
「だからそれまで……元気で」
ほんの一瞬だけ、握った手に力をこめたあと、ナツはその手を静かに離した。
「ナツ……」
ナツの足音が遠ざかる。私は耐え切れずに声を上げる。
「ナツも……すぐお腹壊すんだから気をつけて。冬は風邪ひかないように、喉痛くなったら早めに薬飲むんだよ? カップラーメンばかり食べてないで、ちゃんとご飯も作らなきゃだめ。部活引退してだらだらしてると体なまるから、運動も続けて……」
何言ってるんだろう、私。
「とにかく……元気でいて」
「……わかった」
ナツがそう言って、笑ったような気がする。
「じゃあ、また」
「うん……」
ナツはもう『また明日』とは言わない。明日、私たちはもう会えない。
だけどいつかきっとまた会える。私たちが前を向いて歩き始めて、自然に笑い合えるようになった時――その時きっと、私はまたナツと会える。
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