めぐる季節の向こうに

10/11
前へ
/11ページ
次へ
「はる……」  私の隣に歩み寄ったナツの手が、私の手をそっと握る。 「俺のことなんか待ってなくてもいいけど……でも俺はいつか戻ってくるから」  声が低くなって、手が大きくなっても、つないだ手のあたたかさは変わらない。 「はるのこと、ちゃんと支えてあげられるような男になったら、もう一度ここに戻ってくるから。だから……」  ナツの声を聞きながら、あふれそうになる涙を必死にこらえる。 「だからそれまで……元気で」  ほんの一瞬だけ、握った手に力をこめたあと、ナツはその手を静かに離した。 「ナツ……」  ナツの足音が遠ざかる。私は耐え切れずに声を上げる。 「ナツも……すぐお腹壊すんだから気をつけて。冬は風邪ひかないように、喉痛くなったら早めに薬飲むんだよ? カップラーメンばかり食べてないで、ちゃんとご飯も作らなきゃだめ。部活引退してだらだらしてると体なまるから、運動も続けて……」  何言ってるんだろう、私。 「とにかく……元気でいて」 「……わかった」  ナツがそう言って、笑ったような気がする。 「じゃあ、また」 「うん……」  ナツはもう『また明日』とは言わない。明日、私たちはもう会えない。  だけどいつかきっとまた会える。私たちが前を向いて歩き始めて、自然に笑い合えるようになった時――その時きっと、私はまたナツと会える。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加