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「あー、今日もしごかれたぁ! もう練習しんど」
「もうすぐ夏の大会だもんね」
「大会終われば引退だけどな。これでやっとあのクソ監督から解放される」
「そんなこと言っていいの? 甲子園行くんじゃなかったっけ?」
「行けるわけねぇじゃん。まぁ、一回戦くらいは勝ちたいけど」
「勝てるよ、きっと」
そう言いながら私は、少年野球チームのユニフォームを着たナツの姿を思い出す。
私の記憶の中のナツのユニフォーム姿は、それしかない。
「私も応援に行きたいな……」
ぽつりとつぶやいた私の言葉は、本心なんだろうか。
「来ればいいじゃん」
「……うん」
「来いよ」
ナツの声に、私が黙り込む。
「……はる」
私の名前を呼ぶ、ナツの少しかすれた声。開けっ放しの窓から蒸し暑い風が吹き込み、窓辺につけてもらった風鈴がちりんと音を立てる。
ナツの手が、そっと私の手を握った。そのぬくもりを合図に、私は静かにそれを待つ。
ゴツゴツした大きな手に力が入る。それとは逆にまるで壊れ物にでも触るかのように、ナツの唇がかすかに私の唇に触れた。
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