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ひいきの野球チームの帽子をかぶって、小学校の校庭を走り回っていた男の子。
声が大きくて、ちょっとお調子者で、いつもたくさんの友達に囲まれて笑っていた。
ナツキとはるかだから夏と春だな、なんて、隣同士に住む幼なじみの私たちは友達からからかわれたけど、それは嫌ではなかった。
小学生の頃、そんなナツと手をつないだのはたったの一回。
たまたま一緒になった学校からの帰り道。突然降ってきた雨から逃げるように、ナツは私の手を引いて走ってくれた。
あの頃のナツは私よりも背が低くて、声は高くて、その手はまだ柔らかかったのに。
「じゃあ、またな」
そう言ってナツが立ち上がる。
「……うん」
「また明日、来るから」
ナツの足音が遠ざかる。来た時とは別人のように、その気配を消すかのように。
ナツはまた明日も来てくれる。雨が降っても、風が吹いても、どんなに練習で疲れていても。
自分の母親が運転していた車で事故に遭った、隣の家に住む目の不自由な女の子のために。
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