17人が本棚に入れています
本棚に追加
「お隣、お引越しが決まったみたい」
ため息混じりの母の声を、私はナツの試合の日の朝に聞いた。
「え……」
私の前で、しばらく黙り込んでいた母が口を開く。
「ごめんね、はるか。お母さんちょっとホッとしてるのよ。これであの事故から、一区切りつけるんじゃないかって」
私は何も言わなかった。
あの事故から――ただその言葉だけが胸に深く残る。
お隣に住むナツと私は、親同士の仲も良くて、家族でバーベキューをしたり旅行に行ったり、小さい頃からまるできょうだいのように育ってきた。
六年生のあの日まで、ずっと変わらずに。
『中学の制服の採寸に行くんだけど。はるちゃんも一緒にどう?』
何気なく誘ってくれたナツのお母さんの言葉に、私も気軽にうなずいた。
たまたま一緒に行けなかった母を残して、私とナツは、ナツのお母さんの運転する車に乗り込んだ。
まさかあんな事故に遭うとは思いもせずに。
最初のコメントを投稿しよう!