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「ナツくんのお父さんはいい人よ。事故の責任は全て私がとりますって、誠心誠意対応してくれたし。ナツくんだって毎日はるかのことを心配して……」
「お母さん……あの事故は、ナツのお母さんのせいじゃないよ?」
信号待ちで止まっていた私たちの車に、トラックがブレーキもかけずに突っ込んできて……私はよく覚えてないのだけれど。
「わかってるわよ。そんなこと頭では……でもね、ナツくんはあんなに元気なのに、どうしてはるかだけがって……あの子の姿見てるとどうしても思っちゃって……」
母の声が涙声になる。事故で私が視力を失ってから、母は何度泣いたのだろう。
「お母さん、ナツは元気なんかじゃないよ。元気なふりをしてるだけ。だってナツのお母さんは……死んじゃったんだから」
命を落としたお母さんと、ほとんど無傷だったナツ。そして光を失くした私。
誰が一番つらいんだろう。
私は涙が枯れるまで泣いたし、死んだ方がましかもなんて思ったり、周りの人たちに当たり散らしたりもした。
だけど、自分だけが無事だったことを後ろめたく感じているナツは、私の前では決して泣かないし、泣き言だって言わない。
私のことを本当の娘のように可愛がってくれていたナツのお母さんの話を、この部屋ですることもない。
全ての責任を負うと言ったお父さんと一緒に、ナツも責任をとるつもりなんだろうか。
可哀想な私のために。
「わかってるわよ……」
母がもう一度そうつぶやいた。
「でもやっぱりそこにいて欲しくなかったの。だからお母さんが頼んだ。引っ越して欲しいって……」
「お母さんが……」
「ごめんね。だけどやり直したかったのよ。あの事故のことはもう忘れて、はるかの将来のために」
耳に響く、母のすすり泣く声。
誰が一番つらいのかなんて、どんなに考えたってわからない。
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