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「じゃあなんで泣いてんだよ」
そう言ったナツの手が、もう一度私の手をつかむ。今度はさっきよりもっと強く。
「全然大丈夫なんかじゃないくせに」
握られた手を引き寄せられて、ナツにぎゅっと抱きしめられる。
「これで終わりだなんて……俺は嫌だ」
すがりつくように私を抱きしめたナツの声は、今まで聞いたことのない涙声。
そうか、そうだったんだね。
私がナツに支えられていたように、私もナツを支えていた。
ふとすれば倒れてしまいそうな二人は、お互いを支え合って、なんとかここまでやってこれたんだ。
「ナツ……」
私はそっとナツの背中に手を回す。あたたかいそのぬくもりを、この先ずっと忘れないように。
「ごめん。でももう……ナツには会いたくないの」
震える声に気づかれないよう、ゆっくりとゆっくりと言葉をつなげる。
「ナツに会うと、あの日のことを思い出してしまうから……だから……だからもうナツには会いたくない」
ナツの体がそっと私から離れていく。
ナツが今、どんな表情をしているのかわからない。ナツの泣いている顔も、怒っている顔も、笑っている顔も、私はこの先ずっと見ることができない。
私の知っているナツの顔は、ずっと小学生のまま。なのにナツは、どんどん私の知らないナツになっていく。
だからもう私のことは忘れて。新しい場所で新しい生活を始めて。
夏が過ぎ、秋が来て、冬が訪れ、春になり、そしてまた夏がめぐってくる。
繰り返される季節の中、きっといつか、ナツには素敵な人が現れるはずだから。
うつむいた私の頬に、あたたかい指先が触れる。体を離したナツが、私の涙をそっと拭って、消えてしまいそうな声でつぶやいた。
「……ごめん、はる」
立ち上がったナツが部屋を出て行く。遠ざかる足音を聞きながら、私はくずれるように床にうずくまる。
何よりも大切な支えを外してしまったのは、私自身なのだ。
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