めぐる季節の向こうに

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 よく晴れた夏休みの初日。私は耳をすまして窓辺に立っていた。  この窓からちょうどよく見えるはずの、ナツの家。その家の前にトラックが止まって、引っ越し作業が始まったようだ。  かすかにナツの声が聞こえる。お父さんと何か話しているみたい。引越し屋さんの声も聞こえる。  やがて荷造りの終わったトラックが、ナツの家の前から走り去って行った。 「……はる」  背中に声がかけられた。何度も何度も飽きるほど聞いた、私の名前を呼ぶ声。私は耳だけを、その声に傾ける。 「俺、はるの隣からいなくなるけど……最後にひとつだけ、聞いてもいい?」  何も答えない私の背中に、ナツが続けて言う。 「はる……なんで俺とキスしたんだよ?」  ナツの声に胸がぎゅうっと苦しくなる。 「俺のこと……ちょっとでも好きだって思ってた?」  どうして? どうして今さらそんなこと聞くの? 「私は……好きでもない人と、キスなんてしない」  つぶやくような私の声は、ナツに届いただろうか。 「……よかった」  そう言ったナツの声を聞いたら、真っ暗な世界にナツの笑顔が広がった。  あれは小学生の頃。突然降り出した雨に、手をつないで走って。私の家までたどり着いて顔を見合わせたら、二人ともびしょ濡れで。  なんだかわからないけどおかしくなって、二人で声を上げて笑ったんだ。  そして私は、あんなふうに無邪気に笑う、ナツの笑顔が大好きだった。
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