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人生のある一点において、確かに私と幸恵は友人だった。それは紛れもない事実だ。
今でもふとした時――例えば大学生の時に乗っていた軽自動車と同じ車種を見かけた時、引き出しから出てきたデジタルカメラを見返した時、自動販売機で黄色い缶の激甘コーヒーを見つけた時、――折に触れて彼女のことを思い出す。瞼を閉じて20歳の夏の思い出をスローモーションでなぞると、すぐに幸恵の笑顔が浮かぶ。楽しかった。楽しかった、とても。
記録しておかなければならない。私がキーボードを叩いているのはそう思ったからに他ならない。誰かに知って欲しい。彼女に、私に何があったのかを、知って欲しい。それと同じくらい、現在の彼女の消息を知ることができればと祈りにも似た気持ちで願っている。
――とはいえ正確には私自身にも分からないのだ。あれが何なのか。これからどうすればよいのか。
誰か、砂原幸恵という27歳の女性のことを知りませんか。彼女が何をしているのか、どこに住んでいるのか、――生きているのかどうか、でもいい。何でもいい。少しでも情報があれば、ぜひ一報をいただきたい。
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