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「ね?僕の気持ちもわかるでしょう。茜さんの子だと思うとね、二人ともほんとにどこもかしこも可愛いんだって。きっとそっくりに育つんだろうな、将来が楽しみですよね」
「まあ。…さぞかしもてるだろうな、そりゃ。二人とも」
俺たちは親馬鹿丸出しでしみじみと相槌を打ち合った。
星野はそこで何かに思い当たったようにふと微かに顔を引き締める。
「将来的に竜に本人の出自を知らせるかどうかは正直まだ判断がつきません。何か違和感を感じる様子であればもちろん反応を見つつきちんと伝える必要があるかもだけど。何も感じてなければ特に知らせる必要はないのかどうか…。大人になって、自分の上に川田くんの面影が強く表れてきたら気づく可能性もあるし。ケースバイケースですが、そこは任せてください。本人からそちらに問いただしてくるかもですが、その場合は一応まず知らせてもらって。みんなで相談しつつ一緒にどう伝えるか考えていきましょう」
「わかった。あいつに勝手に何か知らせたりはしないよ、誓って」
俺は軽く片手を挙げて請け合った。
星野整体院の一室で二人の前に引き出されて糾弾されて、自分の情けなさでぼろぼろと泣けてきたあのとき。
あの瞬間はほんとに先のことなんか思いもよらないくらい何もかも真っ暗で。全て終わった、としか考えられなかったけど。
こうして時が何もかもを洗い流してくれて。俺たちは笑って顔を合わせられるようになって、新しい生命もどんどん成長していく。
こうなると、俺たちは一種の拡大家族みたいなもんだと思う。俺はもちろん彼らの内側には入れないけど、それでも時々こうして温かさを分けてもらえる。自分のしでかしたことを考えたら申し訳ないくらい幸せだと思う。
もちろん、大通りの交差点で手を振って満面の笑顔で自分の家族の待つ家へ帰っていく星野の奴に較べたら。俺なんか自分だけのための存在は何一つ持ってはいない。
でもそれは仕方ない。自業自得なんだってちゃんとわかってはいる、…けど。
「…雅文くん。何、この子。甥っ子さんとか?」
「あ」
例によっていきなり訪れてきた板谷に紅茶を淹れようとキッチンに向かいかけた背中に奴の弾んだ声。俺はちょっと不意を突かれて内心慌てた。
先週末、家に帰ってきてからつい浮かれて、スマホで撮りまくってきた写真を厳選してプリンタで印刷して額装していい気分になってたんだった。どうせ部屋に誰か来ることなんて想定してないし、と思って竜と鋼が一緒に写ってるもの。二人とも顔いっぱいに笑みを浮かべて上機嫌にこっちを見ている。
それで一人暮らしのもの寂しい部屋がほんの少し明るくなったような気がして満悦してた。でも、考えてみたら。いつでも気ままに出入りする人間がここにひとり、いたんだっけ。
思わず振り向いてそっちをこっそり伺うと、板谷はこちらに背中を向けて棚の上に飾ってあるフレームを覗き込んで呑気な声で呟いてる。
「何となく雅文くんに似てるから。ご兄弟の息子さんかな。もしかして、この子が例のドラゴンタイプ?」
「あ。…そうだよ。土曜日、こいつの誕生日だったんだ。それで招ばれてて、俺」
そうだった。予定が入ってると言って奴の誘いを断ったあと、そういえばと思ってついでに尋ねてみたんだ。
「板谷さんてさ。ポケモンとか知ってる方?俺、今ひとつわかんないんだけど。『ドラゴンタイプ』ってあるんでしょ。そん中で子どもが喜びそうなのって、何があるか知ってる?」
それまでそんな話題、茜との会話の中で出たこともなかったから知らなかったが。最初はドラゴンタイプにしたから次ははがねにしてみたよ、とか名付けについて説明してたので、どうやら奴はもともとその分野について多少詳しいらしいことが判明した。『闘将』が由来じゃなかったのか。てっきり旦那がドラゴンズファンかと。
それはともかくその影響か、竜は早くもポケモンに嵌ってて、自分がドラゴンだってことに誇りを持ってるらしいことは知ってた。だから今回の誕生日プレゼントはそれにしようと決めたはいいがいかんせん俺には知識が全然ない。
ネットで調べりゃいいと考えてはいたが、ふと板谷は何か知ってるかなと頭に浮かんで何の気なしにとりあえず訊いてみたんだった。
奴もその時の会話を思い出したらしく、合点がいったように改めて声を弾ませた。
「じゃあ、この二人のどっちかが誕生日だったんだ、先週。結局カイリューにした?ボーマンダとかガブリアスも人気はあるけど。グッズならやっぱカイリューが王道だよってわたし、説明したよね。それとも変化球狙いならジャラランガとかヌメルゴン的な。あ、UBならアゴもありかも」
「いやいや、…さすがにそんなにいろいろ並べられても覚えきれなくて。『カイリュー』だけ頭に残ってたから。それで検索して、ぬいぐるみ買ったよ。結局」
板谷は想像以上に詳しくて、マンダやらジャラコやら俺には理解できない名前をすかさずずらずら並べてあれこれ比較し始めたんだが、初心者の俺の脳には一向に沁みてこない。それで諦めて、真っ先に出てきた名前だけを頭に叩き込んでそれを活用させてもらった。
「ちゃんと人気のあるポケモンだったみたいで、その子もめちゃくちゃ喜んでくれたから。ほんとにありがたくて助かった、あのアドバイスは。次は三か月後にはがねタイプなんだけど。何が喜ぶと思う、男の子?」
「ふぅん、はがねかぁ…。そりゃもう、いろいろあるけど。エアームドとかレアコイルとかグッズあるのかなぁ、…ああ。そりゃ、ルカリオ一択だよ。間違いない」
「ルカ、…何?」
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