わたしの自叙伝

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田中は 阪急京都線上新庄駅が最寄り駅で閑静な住宅街の一角にあるマンションに3LDKの部屋を借りていた。 ある日、嫁が実家に帰っているからと自宅に呼んでくれたことがあった。 離婚調停中ということもあり部屋はガランとしていて必要最低限のものしか置かれておらず生活感を感じない部屋だった。 リビングは部屋の奥にありテーブルとテレビボード、その上にブラウン管のテレビが置いてあった。キッチンを見ると財宝というミネラルウォータの入った箱とそのペットボトル数本が転がっていた。料理人ということもあり本格的な調理器具が揃っていていつも綺麗にキッチンを使っているような印象を受けた。 部屋に入ると田中は寝転びマッサージしてと甘えてきた。私は近寄り身体に触れた。私は田中の太った体から出る体臭が好きだった。なんともいえない臭い。甘いにおいがして時には汗も混じり甘酸っぱい匂いに変わっていた。 後にわかったが 糖尿病患者特有の症状で進行具合により身体や尿から甘い香りが出ることもあるらしい。 田中は糖尿病患者の一人だった。 発覚したのは年明けに大阪の今宮神社で開催している祭礼で十日えびす通称「えべっさん」と呼ばれて毎年多くの参拝客が訪れている祭りに参拝しに訪れた時だ。商売繁盛の御利益を授かりたく大きな熊手や笹を買いそこに縁起物を付けて自分の店の見えるところに飾り一年を過ごす。毎年、境内は沢山の参拝客で埋め尽くされてごった返しになっていた。系列店のラーメン屋の 「谷本洋一」も誘い、私たち一行は神社参拝と熊手を買う目的で寒空の下、参道を人々に押されながら歩いた。なんとか人々をかき分けて屋台に目もくれずお目当ての物を購入して参拝もして用事を済ませた。 その帰り田中の様子がおかしくなった。 呼吸が荒くなり締め付けられる頭痛がしているようだった。それでも自分で運転をして自力で自宅まで戻ってきた。家に戻ると寝室に布団を敷いてあげて、寝転ぶと頭を押さえてもがき苦しんでいた。頭痛を和らげるために氷枕が冷蔵庫に入っているから取ってきてと言われ氷枕を敷いてあげた。さらに押入れに指を刺しそこに血糖値を下げるインスリンの注射器と血糖値の数値を測る測定器が入ってるから取ってきてと言われ、指図されるがまま指示に従った。押入れを開けると乱雑に大量の注射器とお薬が入った袋が押し込まれていた。はじめて見たものなので少し戸惑ったが冷静になり必要な物だけをもって押入れを閉めた。 測定器はスティック状になっていてその先には針が付いていて穿刺 する針を消毒した指先に当ててプッシュボタンを押すと針が飛び出し血液が採取される。測定すると数値が正常値(200以下)をはるかに超え500mg/dL以上だった。普通の人だと立って歩行ができないレベル。喉が乾くのか財宝のミネラルウォータをもってきてと言われそのまま2Lのペットボトルを手で持ち口に水を運んでいた。 症状が治まるようにインスリンが入った注射器を腹部に刺していた。 しばらく経ち寝に入った様子だったので起こさないように彼の側に寄り添い看病をした。谷口洋一はしばらくリビングにいたが、私たちが静かになったのを察してタイミングを見計らい、帰るぞと声をかけて玄関ドアをそっと閉めて帰宅していった。 朝まで心配で私は何度か起きては異変がないか様子をチェックして寝起きを繰り返していた。ふと、外の眩しさに目を覚まして携帯の時計をみて驚いた。もう、正午過ぎだった。寝過ぎた。身体を起こそうと身体をうねらせていると、田中は「朝立ちをした!!大丈夫だ!」と下半身丸出しでペニスを露出していた。彼にとって身体の健康バロメーターはペニスが朝立ちすることらしく、身体の体調を表すシグナルとなっているようだった。 案の定、寝起きの私の口元まで近づけてきて舐めて欲しいとフェラを要求してきた。まあ元気になったんだなと思いそのまま受け入れた。気持ちよかったのか固くなったペニスを口だけでは満足せずそのまま生で挿入してセックスする体位となり、最後はちゃんと中出しはせず外で射精していたので安心した。 はじめて二人で入浴をした。 いつもお風呂は別々だったし彼の上半身は暗がりなところで見ていたので普段は気づかなかったが、浴室の電気をつけて全裸になっている彼の姿をはじめて凝視した。お腹や背中周りは贅肉が垂れ下がり体重の伸び縮みがあってできたのか無数に肉離れの線が走っていた。私はギョッとして思わず可哀想だなと目を背け「恥ずかしいし電気を消して入りましょう」と明かりを消して入室した。換気扇の音だけがカタカタと聞こえ、外の明かりが薄っすらと射し込む薄暗い浴室で身体を洗った。 狭い浴槽に2人で入り私を包むように後ろから抱きしめらる形で座り、この人ホントは良い人なのかも、ずっと一緒に居たいと、ふと感じてしまった。 私は京都市中京区にある4階建てのオートロック付きのアパートの2階に住んでいた。最寄駅がJR二条駅となる。アルバイト先までは自転車と阪急電鉄を利用して通勤していた。アルバイト先の若杉水産はテレビや雑誌に取材されて知名度が上がり、一時期最盛期を迎えたがある日を境にぱったりと客足も徐々に減り経営が危ぶまれた。飲食業界も京都の一等地にある百貨店のレストラン街なのに景気は悪くなる時もあるらしい。客足が減ってきた頃になると段々と田中は他の繁盛店にいっているのかお店に顔を出さなくなり連絡もしてくれなくなった時期があった。 そんなある日、バイトを終えて外は暗くなりいつものように阪急西院駅から出て自転車に乗って帰ろうとした時にある若い男性に話掛けられた。私も若かったし寂しさもあったので軽く話掛けられそのままノリで話に乗ってしまった。ずっと話続けられしつこいなと感じつつもそのまま自転車をこがずに押して一緒に歩いた。私の自宅付近まで近づいてきたので自宅がバレたら嫌だと思い近くにある公園の方に向かってそこで自転車を止めベンチに座り話すことにした。それがいけなかった。見知らぬ男は誰も公園にいないのを確認すると無理やり私をベンチに力づくで寝かし上から抱きついてきたのだ。私は反射的に直ぐにもがいて力づくで押し倒し、急いで自転車に乗り勢いよく漕いでその場を逃げた。まだヤツが何処かに潜んでいないかと怖がり30分ほど自宅周辺をグルグルと逃げ回ったのだった。 その翌日すぐに警察に駆け込んだ。私は怯えていて駐在所までにいくまでも周囲を警戒して昨日のヤツがいないか気にしながら向かった。自意識過剰とも言わんばかりだ。警察の人と話す時も身体は過剰に反応して身震いしていた。 今回はレイプ未遂事件として終わったがこれからこの先、様々な被害に遭うことなんて思ってもいなかっただろう。運命がそうさせているのか自分がそうさせているのかレイプされることは沢山あった。 田中から連絡が途絶えて2ヶ月が経った。連絡しても音沙汰なし。恋をしてしまった私は不安の毎日を過ごしていた。 寂しさのあまり遊んで気持ちを楽にしようと思い、ある日、谷本洋一とアルバイト先の友人らと大阪の高槻市にあるROUND1にボウリングをしようと集まった。ボウリングは盛り上がりみんなでいると辛かったことも吹っ飛び、寂しさは徐々に薄まっていった。 それから、一週間ぐらい経ち急に何も音沙汰がなかった田中から連絡が入った。「ボウリングずるい!連絡してなくてごめん!」とメールが入った。とても嬉しくて私は舞い上がって「会いたい!」と再会の日取りを決めた。 おそらく谷本洋一のお店に田中がきてボウリングをした事を伝えたのだろう。 久々会うのだからと京都の自宅まで来てくれた。私も嬉しくてカレーライスを作ってあげて自宅に向かい入れた。ご飯を済ませるとお風呂に入りラフな格好に着替えベットで久々キスをして柔らかい唇の感触を味わいゆっくりと時間をかけてセックスをした。 その頃はベットでの生活だったので腰を動かす度に安物のベットは軋み音を立てていた。 「俺この何ヶ月か色々あって連絡取れなかったんだけど、嫁に玲奈の存在がバレたり…だけど19歳の京都の女の子ということしかバレてないから安心して!まあそれでなにかと会社でも色々あって…」と、音信不通となっていたようだ。 理由を聞いて驚いたりはしたが、嫁とも縁も切れるし一緒にこれから玲奈と生活していきたい!と彼も私の事を考えてくれているようで少し安堵した。 しばらくして季節も秋になり、肌寒く感じる頃、とうとう若杉水産がお店を閉店させるという一報が舞い込んできた。原因は売り上げの落ち込みもあるが、店長が休みも碌に取れずストレスがたまり会社を恨んだのかパチンコ好きであった店長は頻繁にレジのお金を盗みそのお金をパチンコに投資していたらしい。それが本部にバレて店長はクビになり、お店は閉店させることになった。オープンして一年も経たないのに経営不振に陥るとトップがすぐに判断してそのお店を閉めることはあるようだけど、なんとも早い、早かった。 これから働き口が無くなる。不安だ。田中に相談すると、ちょうど大阪の西九条というところでお店をリニューアルオープンすることになって少しの間だけでもいいから手伝ってくれないかなとお誘いを受けた。 先が見えないし、次の職場が決まる間だけならそこで働こうと快諾した。 「それに、嫁とも色々と話を詰めたところだし、大阪で仕事となると通うには京都からだと通勤が大変でしょ?しばらくの間だけでも俺の家で一緒に住まない?」と、とんとん拍子に話は進み大家さんに退去する旨を伝えた。一緒に暮らせるなんてとても幸せ♪と舞い上がった。 このアパートは母親の友人で「三浦良民」という男が仲介人として立ち会って契約をしてくれた。私が小さい頃から家族同士仲が良くそれぞれのお宅に宿泊し合う関係で信頼している人物だった。引越しすると連絡をすると、せっかくだし引っ越す前に食事でもと誘われ、二条駅の駅中にある飲食店で落ち合った。三浦良民は黒ビールが好きでグラスが飲み終わる前におかわりしてお酒を絶えずなくならないように注文していた。私は飲むとすぐに顔が赤くなるのが嫌で控えめに付き合い程度でお酒を呑んだ。2時間ほど経った頃、そろそろ帰ろうとお会計をしてくれた。奢ってもらえるのは有難い。お店から出て、この建物は駅直結だしもう解散かと思っていた。だが彼は、「せっかく京都まで来て玲奈の顔見れたし、最後にお家の中覗いていっても良い?」と信頼していたし何も怪しまず自分の部屋まで案内をした。部屋の間取りは1Kで部屋の広さは6畳程度。ベットスペースが空間の大半を占領しているので、TVやテーブルを壁際に追いやっても残るスペースは限られている。 部屋に通すと三浦良民は窮屈ながらも床に座り、私はベットの上に座った。何気ない会話をしていると、あれだけ飲んだのもあり尿意を感じたのかトイレに行きたいと場所を案内した。用便を済ませ戻ってくると、三浦良民は床ではなく床に足を下げた状態でベットに腰を掛けてきた。お酒を飲んでいることもありよく喋る。私は鬱陶しさも感じつつ、ベットの枕元に三角座りになり話を聞いた。 ところが話をしていると突然身体に近寄ってきて抱きついてきたのだ。 私はまたか…と半分諦めながらも、必死に抵抗したが、男性の力に勝てるわけがなく、キスを無理やりされ、舌まで絡めてきてしばらく力づくで身動きが取れないままでいた。苦しい。息遣いも荒く興奮していた。服の上から胸も触られ下も触らせそうになった時に生理だったことに気づき「やめて!良民落ち着いて!!私今日生理だし触らないで!本当にやめてこんなの嫌!!!」と何度も叫んだ。 ようやく我に返ったのか身体から離れた。肩で息をしながら私の方を見るなり「じゃあ今度しよう」と口元が笑っていた。「玲奈はこれからもたまに会ってくれるよな」と言われ、怖いしその場を早くやり過ごしたかったので、ウンと頷いた。彼はニヤついていた。タクシーを自宅まで呼び下まで送ると三浦良民は軽くキスをしてやっと帰っていった。 この男が小学4年生の時にファーストキスを奪った男だった…。 人間性質は変わらないものだ。男性は性欲は抑えられないものなのか。 翌日、大型の物は引越し業者に任して先に小物類は田中が車で運んでくれるため迎えに来てくれた。一度、田中の家まで荷物を運びその後西九条にこれからリニューアルオープンする店に挨拶がてら顔を出しにいった。カウンター席に通されると、「柳原 武」という人物が目の前に立っていた。白い半袖の調理衣を着て目元は両方二重かと思いきやよく見ると片目は一重で鼻筋はしっかりと通りキリッとした特徴ある顔立ちだった。料理はどれも美味しくてこんな美味しいものを作る板前さんがいるんだと感動した。 その帰りの車内で昨夜起こった出来事を伝えることにした。田中は怒りだし「今からそいつの電話番号を知っているなら電話しろ!お前もお前だ!部屋に入れるからだろ!」「馬鹿な女だ!」などと罵声を浴びせられた。その怒りの矛先を彼にぶつけられない代わりに私に容赦なく怒りをぶつけてきたのだった。 狭い車内で大声を発せられると迷惑なものだ。 仕方がない。電話をするしかない。 深夜11時過ぎ。「こんな時間に電話しても出ないと思うよ」と言っても全く聞く耳を持ってくれず「今すぐ電話しろ!!」と怒鳴られ仕方なく本人の携帯に電話をかけることにした。田中は煙草に火を付けて高ぶった精神を押さえるようにタバコを吸い出した。渋々電話を掛けたがすぐに留守電となり電話を切った。すると、今度は「自宅の番号知ってるなら自宅に電話しろ!!」ともう何を言っても聞かないので従うしかなかった。緊張しながらも電話をすると、一緒に同居している私より3つ離れた実の娘が電話口に出た。 恐るおそる…「急に夜分に電話してすみません、良民、いや、お父さんは居ますか?」と話すと今は旅行に行っていて自宅に居ないとのこと。「そうですか!居なければ結構です!夜分に失礼しました!」と早々電話を切った。電話を切るなりその旨を田中に伝えると、「じゃあ、明日もう一度電話して口止め料と慰謝料としていくらか貰え!必ず電話すること!」と乱暴な口調で叱咤された。 朝を迎え職場に連れられ、職場に入る前に電話しろと急かされて電話を掛けた。すると、直ぐに三浦良民は電話に出て、昨日の一件を口早に伝えて相手の反応を伺い、慰謝料と両親への口止め料を請求すると震えながらも伝えた。しばらく沈黙があり相手は考え込んでいたが「請求金額はいくら?」と悪事を認めたのか口を開いた。私は戸惑ってしまいどうしようと田中に目をやると、「それは相手に決めさせな!」と耳元で囁かれ金額は任せますと…言われるがまま伝えた。最後に、「もう会わないで欲しいし、近付かないで!」と乱暴に電話を切った。携帯を持った掌は緊張をして汗をかいたのか手汗で滲んでいた。 口座番号はメールで伝えると、後日用意した金額が振り込まれていた。 金額を田中に伝えるとお前の詫び代はこんなものかと笑われてしまった。 お金よりも心の傷の方が損傷が大きい。笑うなよと言葉にしなかったが、心の中で悲しんだ。 この一件はこれで解決した。
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