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「千歳、久しぶりじゃない。おっきくなったねえ。何年生になったの?」
どろぼうじゃなかった、という安心から、ついつい声が大きくなる。
千歳は「はあ」と首をすくめて
「大学一年」
とぼそっと答えた。
「大学? もう大学生になったの?」
「うん。……なんでフライパン持ってんの?」
私は、「あはは」と、フライパンを背中に隠した。
「なんでもないの。そう、夕食をね。作ろうかと思って」
千歳は「ふうん」とつぶやいて、あくびをしている。
それにしても、おかしくはないか。
いくら親戚だとはいえ、こんなふうに黙って人の家にあがりこみ、あまつさえのんびり眠っているなんて。
「ねえ、千歳、一人でここに来たの? 珍しいね。おじさんとおばさんは?」
千歳は眉根を寄せ、不可解なものを見るように私を見た。
一瞬、沈黙が訪れる。
階段をのぼる足音が聞こえて、母がリビングに顔を出した。ふっくらとした笑みを浮かべて、母は、千歳に話しかけた。
「ちーちゃん、いらっしゃい。荷物ぜんぶ運んだの?」
「ああ、うん。今日からよろしくお願いします」
「ケーキ買っておいたのよ。あとでみんなで食べましょう」
……荷物? 今日から?
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