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プロローグ
「ほら起きて起きて!」
朝のジャスト三時半。
いや、朝というよりもはや夜に近い時間帯に、俺はいきなり耳をつんざく大声で叩き起こされた。
目を開けると、目の前にドアップでキラキラ輝く大きな瞳と、きりっとつりあげられた眉。
ポニーテールにした明るい茶色の髪が、俺の顔を覗き込むのにあわせてパサリと頬にかかるレベルの至近距離だ。
床居優香。
小学五年生にして、警察に事件解決の協力を頼まれるほどの頭脳とライセンスを持つ、天才少女。
……そして心の底から信じたくないが、今現在俺と付き合っていて、さらには同居中の彼女でもある。
「……何事だ?」
その肩を押して距離を引き離し、布団から起き上がる。
だいたい理由に予想はつくが希望を捨てきれずに一応聞いてみると、とても不思議そうな顔を返された。
「何言ってるの、今から勝負よ」
捨てきれなかった希望が粉々に打ち砕かれる。
当たってほしくなかった嫌な予感が的中してしまった。
「……今、三時半だぞ?」
激しい頭痛に頭を抑えながらダメ元で反論するものの、
「うん、涼しくて気持ちいいね。あ、外に出てもいいよ!」
付き合いと同時に同居を始めて一週間経った今も、本当にこの思考回路が理解できない。
思考回路は理解できないが、猪突猛進に意地っ張りを混ぜて頑固おやじをふりかけたこの生き物は、俺が何を言おうが絶対に動かないのはこの一週間で理解している(正直とても理解したくなかった)。
無駄な抵抗をするよりは、とっとと用事を済ませて二度寝したい。
俺は覚悟を決めるとばさっと布団を跳ね上げて起き上がり、とっくに支度を済ませていた彼女を着替えるために追い出した。
……なんで世間から天才詐欺師と呼ばれる俺が、こんな目に遭ってるんだ?
一瞬頭の中にそんな疑問が浮かんだが、それはHPをこれ以上減らさないために封印する。
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