ひかる、ひかる。

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ひかる、ひかる。

「兄ちゃん、僕、お化け見たかもしんない……」 「はあ!?」  俺の二歳年下の弟、(カイ)がそんなことを言い出したのは、夏休みも半ばになった頃である。  俺達兄弟は五人家族だ。ホームセンター大好きなじいちゃんと、おしゃべり大好きなばあちゃん、ダイエットに忙しい母さんと俺という面子である。  父さんはいない。俺達がまだ小さい時に突然いなくなってしまって、それっきりだ。外に女の人を作って出て行ったらしい、と俺が理解できるようになったのはだいぶ後になってからのことである。俺ももう九歳。それくらいのことはちゃんと把握できる頭があるつもりだ。気になっても、それが深く突っ込んでいけないことということくらいなんとなくわかる。だから詳しいことを尋ねたことは、一度もない。  特に、弟は小さすぎて、父さんのことなど殆ど覚えていないはずだ。いつか、もう少しいろんなことが理解できる年になったら、何故父さんがいないのかをきっと母さん達もちゃんと話してくれることだろう。もしかしたら、その頃には新しいお父さん、なんてものができているのかもしれないけれど。  とにかく、そんな俺が小学三年生、海が小学一年生の夏。至って普通の、真面目でもなんでもない男子小学生であった俺達は、当然きちんと宿題を片付けるでもなく毎日遊びほうけていた。今までの経験上、日記は後で適当に埋めればなんとかなるし、読書感想文もネットで調べた文章を適当につなげればどうにかなってしまうことくらい知っているのである。自由研究はまあ――そろそろ手をつけないといけないような気がしているが。最悪、どこかの公園で絵の一枚でも描いて提出すればなんとかなるだろう。俺も弟も、昔から絵は結構得意なのだ。  昔から似たもの兄弟だった俺達だが、一つだけ大きな違いがあった。それが、弟が怖がりで、俺はお化けの類が全然平気ということである。  今時、やれ花子さんやら二宮金次郎やら、で怖がるなんて流行らない。そんなの、大昔の人の都市伝説だ。幽霊やらなんやらってものは実在するのかもしれないけれど、霊能者でもなんでもない普通の小学生にホイホイ見えるものとは思えない。  だから、見える幽霊、なんてものは。何かを勘違いしたか、作り物かのどっちかに決まっている。ゆえに、部屋でおやつを食べながら弟にそう相談された時も、“また何か見間違えたのかコイツ”くらいにしか思っていなかったのだ。
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