ひかる、ひかる。

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 ***  結論を言えば。  有言実行と言わんばかりに、こっそり夜中の二時頃に起きた俺達は。家の前を通り過ぎていく、小さな光を目撃することになるのである。  海の言葉は、けして嘘ではなかったというわけだ。ゆらゆら揺れる光が、ゆっくりゆっくりと道を駅と反対の方向へ歩いていくのが見える。この近隣は閑静な住宅街で、空き地が多いこともあってか随分と暗い印象がある(だからこんなところに一軒家も建てられたのよ!なんて母さんが胸を張っていたから、きっと駅の近くより土地の値段が安かったんだろう)。小さな光はそんな中、随分目立っているように思えた。海が怖がるのもまあ、わからないではない。  しかし。 「に、兄ちゃん……あ、あ、あれ」 「お前馬鹿だなあ……って、眼鏡かけてて俺より目悪いから無理もないかもだけど。あれ、火の玉なんかじゃないだろ。よく見てみろよ」  家の門の影に隠れて、怯える海に半笑いで返す俺。 「懐中電灯……いや、手で下げて持ってるからランタンかな?ランタンを持った人間が、ゆっくり歩いてってるだけじゃねーか。お化けでもないし、ましてや火の玉とかじゃねーって」  俺の言葉に、ようやく気づいたのだろう。海は目をぱちくりさせてあっけに取られている。 「マジ?」 「マジマジ。まあ、この暑い時期に、なんで真っ黒なコートみたいの着てんだろうなーとは思うけど」  その人物は、背中からでは男か女かもわからなかった。ただ黒いコートをしっかりと着込み、フードまでかぶっているせいで、完全に夜の闇に溶けてしまっていたのである。左手にランタンを持ち、右手には何か銀色に鈍く光る棒のうようなものを握りしめている。  なんだろう、と思ってよく見れば、大きなスコップだった。先端には逆三角形の持ち手があり、反対側には砂を掘るスプーン状の刃がついている。じいちゃんも庭で園芸をする時よく使うし、俺達も学校の授業の一環で使ったことがある見慣れた道具の一つだ。まあ、あの大きいものを関西ではシャベルと呼ぶらしい、なんて話も最近どこかで聞いたことはあるが――それはさておき。
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