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「お前らなあ」
翌朝の、朝食の席。とっくの昔に朝ごはんを食べ終えたおじいちゃんが、リビングで新聞を広げながら言う。
「いくら夏休みだからって、十一時まで寝てるのはどうなんだ。俺達はもうすぐ昼ごはんになっちまうぞ、なあ?」
「そうね、父さん。海も天も、もうちょっと節度ある行動を心がけなさいよね。特に天、お兄ちゃんなんだから海にお手本見せないと」
ね?と笑いかけてくる母さん。呆れたように笑うじいちゃんと、その向こうで花に水をあげているばあちゃん。
いつも通りの光景に、いつも通りの美味しい朝ごはん。ちょっと寝坊はしたけれど、俺と海の生活は何も変わらないはずである。
ただ箸を持つ、俺の手の震えが止まらないというだけで。
「う、うん。……気をつける。ごめんなさい……」
殊勝に言いながら、俺は思う。
あの黒いコート、よくよく考えればどこかで見た覚えがなかっただろうか。
あのスコップは、じいちゃんがよく使うものに随分と似ていなかっただろうか。
そしてあの、一言だけ聞こえた声は。
――夢だ。きっと、そうに決まってる。
俺は生まれて初めて。
昨夜見たものが――本物の幽霊であって欲しいと、そう願ったのである。
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