chapter1  それぞれの絶望

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         4 深山沙那(みやまさな)は群馬にある自宅でスマホから『シャウトボイス』の掲示板を閲覧していた。 最近では忙しい日々の合間を縫っては、掲示板の投稿を確認するのが日課になっていた。 沙那は4歳の一人娘を持つシングルマザーだった。 現在保育園に通う娘の(りん)とは安アパートで2人暮らしだ。平日の日中はスーパーでパートをして夕方に凛を迎えに行く生活。土日も働く日もある。 凛は好き嫌いが激しく、食事の面でも手がかかる。体も弱く熱を出しやすい。 沙那自身も昔から体が丈夫な方ではなく、夫と離婚してからはメンタルの不調も発症した。 --もうダメ。死にたい-- 疲れやすくなり、心の中でそう(つぶや)く頻度が多くなってきたように思う。幼い凛を残していくことはできず、いっそこの子も道連れに…。 追い込まれた時、沙那の頭にはそんな良からぬことが(よぎ)ってしまう。 「ママー、お腹空いたー」 「今日は〇〇ちゃんと遊んだよー」 凛の愛くるしい笑顔を思い浮かべると、決してバカなことはできない。しかし希死念慮は否応なしに浮かぶ。 今沙那にとって一番必要なものは「お金」だ。 元夫はまともに働いておらず、凛の養育費は払われていない。生活保護もまだ働けるため申請できず、何とかパートで2人分の生活費をやり繰りしている。 大金が欲しいわけではない。 せめて今の苦しい生活を抜け出せるだけの資金があれば…。 だがお金だけでは解決できないのが、精神の病である。 一度芽生えた希死念慮や自殺願望は、そう簡単には消えない。状況が良くなったとしてもなくなるわけではなく、また悪くなれば再び更に悪化して現れることもある。 お金があれば希望を見出して切り抜けられるかもしれないが、どちらにしろ凛の母親として娘に一生添い遂げなければならない。 それを彼女は責務だと感じているが、今の沙那にはその自信と気力はなかった。
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