chapter1  それぞれの絶望

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         5 「ねえひろ兄。初詣の後どこ行く?」 長い髪の少女が、スマホで『シャウトボイス』の投稿を見ながら茶髪の青年に話しかけた。 「そうだな。神社行ってお参りしてから、川の方に散歩にでも行くか」 青年は同じサイトをスマホで閲覧しつつ答えた。 「うん!のんびりしよ」 少女は嬉しそうに青年を見つめた。 神奈川西部に住む大東宏文(だいとうひろふみ)柚葉(ゆずは)は、親が再婚同士でそれぞれの連れ子だった。 父方が宏文で母方が柚葉。 両親は16年前、宏文が4歳と柚葉が3歳の時に再婚した。そこで事実上、2人は血の繋がらない兄妹になった。 幼かった2人は1つしか年の差がなかったこともあり、お互いすぐに打ち解けた。 小学生までは誰が見ても本当に仲の良い兄妹で、一緒に絵本を読んだり、公園で走り回ったりして遊んだ。 だが6年前、宏文が中学2年生の頃から、2人は互いを異性として意識し始めるようになる。 きっかけは6年前のクリスマス。2人は既に別々の部屋で寝ていたが、夜中にサンタクロースのフリをした宏文が柚葉の部屋へこっそりと入った。そこで思春期真っ盛りの宏文は、寝ている柚葉の唇にキスをした。柚葉は嫌がる様子もなく、2人のファーストキスは思い出に残る特別なものとなった。 以来、二人きりの時は手を繫いで歩き色々な場所へ出かけた。 それでも兄妹であることを知っている周囲を気にしながら愛を育んできた。 しかし宏文が高校2年の頃、柚葉と性行為をしている瞬間を母親に見られてしまう。それが原因で両親にこっぴどく叱られ大喧嘩した挙げ句、2人は家を飛び出したのだった。 以後2人はアパートに同棲し、宏文が建築関係の仕事をしながら生計を立てている。 宏文と柚葉は兄妹ではあるが、親を振り切った今結局は連れ子同士、血の繋がらない他人なので気兼ねなく付き合えている。 ただ親のこともあるが、どちらかと言えば学生時代のいじめが原因で、2人はうつ状態にあった。
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