プロローグ  罠と餌

1/1
前へ
/60ページ
次へ

プロローグ  罠と餌

2021年1月1日、午前0時15分。 新しい年が明けてわずかが過ぎた頃、私は愛知の自宅のリビングのソファに寝転がりながら、これから始める壮大な“計画”について考えていた。 それは単なる“ゲーム”にしては相当悪質だった。ただ私が描いたシナリオ通りに彼らが動いてくれたとすれば、私は想像以上の快感を得られるかもしれない。 私はノートパソコンを起動させ、事前に用意しておいた「罠」を仕掛けた。それは彼ら6人をおびき出すための必然のツールに、ちょっとした細工を施したもの。 もう一つ重要なのは彼らを破滅へと誘うための、言わば「餌」だ。 彼らは私が仕掛けた「罠」にまんまとはまり、与えられた「餌」に釣られ、愚かな争いを繰り広げるだろう。そしてその後のストーリーも想定していて、彼らにおあつらえ向きな「舞台」ももう用意してある。 そう。これは私が考案した、“絶望ゲーム”。虚無の日常に最高の刺激を与えてくれるもの。 始まったら、もう後に引くことはできないだろう。だが後悔など全くない。 ふと窓を開けて外を見た。冬の夜に綺麗な星空が見えた。ツールに施した「罠」の内容には相応(ふさわ)しい季節と景色だった。 私は今回の“ゲーム”のハンドルネームを、自身の星に対する興味から『カノープス』と名乗ることにした。 『カノープス』はりゅうこつ座のアルファ星で、太陽を除くと全天で2番目に明るい恒星である。私は星の中でこれが一番好きだった。 私はこの“ゲーム”に全てをかける決意をした。 思わず、笑みが(こぼ)れる。 集まった彼らが、困惑と絶望の表情を浮かべる姿を想像して。 自信に満ちた私はパソコンの前で、キャストたちが出揃うのをしばし待つことにした。
/60ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加