chapter1  それぞれの絶望

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父の自殺の5年後に、再び親友の自殺。 波乱万丈の壮絶な人生。 陽真莉の自責の念と哀しみは一層増し、ついに精神科を受診した。 その病院で心理カウンセラーの正木翼(まさきつばさ)先生を紹介された。 正木先生は評判の良い実力者で、陽真莉の話を親身になって聞いてくれ、的確なアドバイスをし、彼女が自殺をほのめかすと叱ってもくれた。 「先生、辛いです。私もう生きていけないかもしれません」 「陽真莉さん。命というのはね、自分だけのものではないんですよ。亡くなったお父様や香帆さんの所にいけるわけではありませんし、何より残されたお母様が一層哀しみますよ」 正木先生に(かか)ってから5年。先生には全てを話せ、信頼もしている。自分の自殺願望を否定はせず、でも実際に死のうとすると止めてくれる。先生がいたから、何度か自殺未遂はしたけど今日まで生きてこれた。 --ごめんなさい先生。でももう死にたいよ。苦しいよ。お母さんも最近辛そうだし、2人でお父さんと香帆の元にいきたい-- 自殺は連鎖されやすく、悲劇は続いてしまう傾向がある。陽真莉の精神状態ももう限界だった。 陽真莉は再び『シャウトボイス』を開き、チャットルームにアクセスした。 死ぬ前に誰かと話したい。自分の想いを聞いてもらいたい。 そこで神原竜樹と同じく、『カノープス』が管理するあの部屋へ辿(たど)り着いた。 陽真莉は案内文を読み、5つのハンドルネームの候補名が出ると、一番上の『シリウス』を選んだ。 正直何でも良かったが、音の響きもいいし、記憶が正しければ太陽を除いて最も明るい恒星だったはず。何となくこの名前に希望を託した。 「ようこそ、『シリウス』様。あと定員まで4人お待ち下さい」 陽真莉は少し不安げに天井を仰ぎながら、スマホを一旦机に置いた。 残り4人。
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