私達は狂ってる

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もう少しで日を跨ぐ夜の11時。 小さな街の小さな私営診療所を経営する私、立花 綾は、ついさっき今日最後の患者さんを診終えたところだ。  小さな診療所のくせにこんな時間まで、と思うかもしれないが、他の病院が夕方頃には閉まってしまうせいか夜に診に来る人は意外と多かったりする。  そんなこんなで、やっと一息ついてリラックスしようかと思ったとき。  診療所のドアが開かれた。  もう診療時間は終わっているし、緊急外来の患者が来ることは稀にあるが鍵を締めているので勝手に入られる事はないだろう。勿論締め忘れもしていない。  となると、今入ってきたのは合鍵を持つーー 「はぁ、また来たのね翠花」 「えへへ、ごめんね綾ちゃん。今いいかな?」  そこには、申し訳なさそうに目尻を下げて手を上げる古賀峰 翠花が立っていた。  古賀峰 翠花は私の小学校からの幼馴染の一人である。短髪でボーイッシュな外見の私と違い、肩まで伸ばした黒髪はその整った顔と完璧にマッチしている。 「大丈夫よ、もう通常の診療は終わってるし、合鍵で開けて入ってきたんだからわかるでしょ?」  私がそう言うと翠花は、そうだねごめんね、とやはり申し訳なさそうにした。  この申し訳なさそうにするのは翠花のここ最近の癖であり、このままだと話しが進展しないのも経験によりわかっているので、特に気にすることもなく話を続ける。 「それで、今日は何が欲しいの?血?それとも包帯?」 「今日は血と、消毒もして欲しいの、最近多くて」  そう言って六花は服を捲り、お腹に巻かれた血の滲む包帯を外した。  するとそこには無数の傷、傷、傷。細かな切り傷から、大きめの裂傷、何か先の尖ったもので刺された傷まで千差万別である。  過去の大きな傷を縫った跡もあるが、その上にも更に沢山の新しい傷が覆っている。中には幾多の傷が重なり大きな傷のように見えるものもある。  そんな傷だらけのお腹だが、一際目を惹くのは横腹にまっすぐ縦に入った大きな裂傷だろう。その傷は、その元となった刃物も勿論大きかったのだろうが、その傷により見えた肉に更に傷が刻まれている為、それはもうグチャグチャ、という表現しかできない様になっている。 「あんた、なんでこれすぐに治しに来なかったの」  見るからに日数の経つその傷を見た私は、込み上げる怒りを押し殺して、静かに翠花を問いただす。  「だ、だってもうこの傷が出来たときにはグチャグチャで、さすがの綾でも縫えないかなって…それに、縫ったら当分そこは傷付けられないでしょ?そしたら六花も溜まっちゃうと思うし...」 「私を誰だと思ってるの、このくらいの傷訳無いわよ。それに、六花には…お腹だけじゃなくて他のとこをやらせれば良いでしょ…」  自分で言っていて嫌になる。  そう、この傷は翠花が自分で付けたものではない。私のもう一人の幼馴染である三谷 六花がやったものだ。  縫うために診療所のベッドへ横になった翠花に麻酔を注射しつつ、私達がまだ小さかった頃、全ての事の始まりを思い返す。
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