私達は狂ってる

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 そこまで考えたところで、翠花の傷を縫い終えた。 「終わったわよ、体調はどう?翠花」 「う〜ん、今はまだ麻酔が効いててよくわからないや」  局所的に縫うだけなので全身麻酔はせずに局所麻酔なのだが、翠花は痛みに強いのと関連があるのか麻酔にもそこそこ強い為、普通の人よりも多くの麻酔を使うことになる。  だから終わった後は体調はを気にする必要があるのだ。 「毎回ありがとうね綾ちゃん」 「このくらい訳無いわよ、でも、しばらくは安静にしなさい、じゃないと翠花、あんた死ぬわよ」  少々酷な言葉を使ったが、これは誇張でも何でもない。  実際翠花は最近血を流しすぎている。このままでは六花が暴走するよりも先に… 「心配してくれてありがとう、でも、無理かな。最近六花ちゃん症状が収まりにくいんだ。人を、私を、かなり傷付けないと正気に戻れないみたいなの」  やっぱり六花の症状は着実に進行しているらしい。 「発作のときの六花の様子はどんな感じなの」 「泣きながら、必死に刃物を振るう手を止めようとしてるよ、何度も、何度もごめんって言いながら」  どうやら発作のときもまだギリギリ正気を保ったままらしい。  狂人になっていないだけまだ猶予はあるかもしれない。 「そう、六花も辛いでしょうね…もちろん翠花、貴女も」 「うん、傷付けられてるとき、本当はね凄く怖いんだ、六花を抱きしめて、大丈夫、大丈夫って口にしてるときも、心の底では六花に恐怖心を抱いてるの。受け止めるって、私から言い出したことなのに、私、酷いね…」  そう言う翠花の顔は、酷く辛そうで、そんな様子を見たら、つい、本音が口を衝いて出てしまった。 「なら……どうして翠花は六花の暴力を受け止めてるの、いっそ見放したほうが…」  そこまで言って気付く、思っても決して言ってはいけないことを口にしていたことに。  でも、耐えられる筈がない。ずっと、ずっと思い続けていたこと、好きな人が傷つく様を見ても、ずっと耐えてきた。これだけは口にしてはいけないと、だけど、その人から、今まで絶対に口にしなかった初めての弱音が溢れて、それを聞いて、どうして黙っていられるか。 私には、出来無かった。 「あはは…そう、だよね。その方が、もしかしたら辛くないかもしれないね…」 「な、ならっ…!」 「でもね、綾ちゃん。私六花に傷付けられる時ね、その傷の痛みよりも、何よりも、心が痛いんだ、苦しくて哀しくて、六花を本当の意味で救うことが出来無い自分が、虚しくて情けなくて…」  ポツポツと、途切れ途切れで絞り出すように話す翠花には、昔の明るかった頃の面影はもう残っていなかった。
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