選択の刻

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選択の刻

 とても静かな夜だった──……。  風もなく、文机の上に置かれた蝋燭の火は少しの揺らぎも見せずにただただ煌々と燃えている。  そんな灯火を文机の前に座っている男は静かにじぃっと見つめていた。  しかし、その脳内では色々な事が渦巻いている。  この先、自分がすることは正しいのか。  自分の決断は間違っていないのか。  男はこの後来るはずの客人に言うべきことを反芻しながらそんなことを考えていた。 「いや、間違っているはずなどないのだ」  自分がすべきことはただ一つ。それは分かっている。  問題は、他のところにある。  少し空いた障子の隙間から、一匹の蛾が入ってきた。  その蛾は少し部屋の中を羽ばたいた後、美しく燃え続ける蝋燭の火に惹かれ、その身を焦がした。  それと時を同じくして、部屋の襖の前に誰かが立った気配がした。 「入れ」  男がそう言うと、静かに襖が開き、肉中背の男が入ってきた。  男がずっと待っていた"客人"だ。 「来たな。……一人か?」 「はい、申し付けられました通りに、一人で参りました」 「この事は誰も知らないな?」 「はい、今宵の事は誰も知りませぬ」 「よし」  男は立ち上がり、外に誰もいないことを確認してから障子を静かに閉めた。  そして、客人である男の前に腰を下ろす。 「まぁ、座れ」 「はい」  客人は男に言われるままにその場に正座で座った。 「夜は長い。楽にしてくれ」 「私にとってはこの姿勢が一番楽です故」 「……そうか。ならいい」  少しの間、沈黙が流れる。  男は一度息を吐いてから、話始めた。
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