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美しいものを見て、涙を流せるんだ、こんなわたしでも。
人を裏切ってばかりのわたしに、空はこんなふうにありのままを受け入れてくれるんだ。
それは自分本位な物の考え方というもの。わかっている。そんなことは。
けれど、どうしようもできない心の葛藤をはやく解きたかった。正宏くんを傷つける。こんな自分は嫌いだった。
すやすやと寝息を立てる彼を起こさないように、ベッドからそっと抜け出した。
下着をつけて、わたしはワンピースを着るとベランダへ出た。綺麗な空を真正面に、わたしはその場に立つことが許されないように思えてくる。
「さやかちゃん?」寝ぼけ眼をこすって、正宏くんが顔をのぞかせている。
空は、太陽が昇り始めると、水色に曙色が滲んで、ひろがって、空ってこんなに広かったんだと思う。夏と秋の二つの季節が空で行き交って、天色の空に鱗雲が棚引いている。
「正宏くん……」わたしは切り出そうとした。
このままじゃいけない。どうにもこうにも、彼を傷つけるだけで、自分の身を守るためではなくて、飯野さんと正宏くんを比較しているわけじゃない。結果的にそう見えてしまうけれども、そうじゃない。そうじゃなくて……
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