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だめだ。そう決心して、爪が食い込むくらいに両手を握りしめた。わたしには正宏くんと付き合う権利なんてない。
このままの気持で、これ以上そばにいると、恋愛を勝ち負けでとらえて、正宏くんに酷い仕打ちをするかもしれない。もっと傷つけるかもしれない。
わたしの心のなかにはまだ、飯野さんがいる……
振り払って、消し去っても、まだ。
いないように見せかけて、いるんだ。
まだ。
ああ。わたしの口から熱い吐息が漏れた。
なぜ、正宏くんではだめで、どうして飯野さんなのだろう。
正宏くんの顔を見られなかった。泣いちゃいけない。
正宏くんのほうが泣きたいに決まっている。
「別れてください」自分の声が遠くから聞こえるように思えた。
「さやかちゃん」と言いかけて、彼はそのまま黙り込む。
「こんなときに話すことじゃないってわかってる。でももう」
「それ以上言わないで」さえぎるように正宏くんが言い放った。「お願いだから」
「ごめんなさい……ごめんなさい」わたしはうつむいた。涙声だった。
二人とも、泣いていた。
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