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「少し考えさせてほしい」という彼の言葉を聞いて、反射的に首を横に振った。決定権なんてあるはずないのに、こんなわたしに。
「あなたの気持をふみにじったのは、わたし。気づかないふりをしているのは、やめにしたくて」
頭で考える間もなく、言葉が口から何かの呪文のように出てきた。
「さやかちゃん……僕は、ただ、君が好きで、好きでいさせてほしい。こんな」
「正宏く――」
「こんなことって」
言ったそばから彼がわたしを抱きすくめた。瞬間、押し止めた悲しみが彼の体をこわばらせていた。こんなにも力強くて、あたたかくて、真剣に思ってくれている。そんなひとを裏切るなんて。
わたしは……
「わたしが悪いの。はじめからもっと、ちゃんと考えていれば」震える声が彼の肩にこもって、湿り気をおびる。「だから、もうこんな」言葉にならない思いが一気に流れ込んできて、喋り方もたどたどしくなった。「こんなことになって、わたしは」
「言わないで、それ以上は」
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