かわたれに、臍を噛む。

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かわたれに、臍を噛む。

「ごめん……そういうつもりはなくて。女友達と思っていたから……付き合えないよ」  仕事終わりのオフィス街。  飯野(いいの)さんにそう言われた瞬間、すべてが終わった。  過ぎ行く夏と歩み寄ってくる秋の気配が入り混じる。立秋が過ぎて、虫の()が聞こえ始めた夕闇のなかで、彼の顔さえはっきりとはうかがえず、わたしは誰に対して話したのかわからないくらいに、暗くて深い孤独に落ちていった。  わがまま。軽率。卑劣で強情。  酷い女に成り下がっていた。  わたしは、飯野さんへの片思いに疲れ果てていた。  飯野亮平さん。二十七歳。独身。彼女と別れて、急接近してきた彼に、わたしは恋に落ちた。その感覚が久しぶりで、恋に落ちるということが、どんな気分かすっかり忘れていた。そして、そのなかにいると、足元を(すく)われたり、飛んだかと思えば落っこちてしまうことも、忘れていた。彼を狡猾(こうかつ)などとは思わなかった。一緒に過ごすうちに、不思議と純粋に()かれていった。でも、前の彼女さんと連絡を取り合っては、会っているらしかった。同僚の話を聞いてしまった。  
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