かわたれに、臍を噛む。

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 そのときに、飯野さんへ直接訊()けばよかった。そして、素直な胸のうちを伝えればよかった。でもできなかった。勇気がなかった。  いま思えば当時のわたしは安直(あんちょく)で、もっと別のやり方で、どす黒くて同じ場所に居続けている心地にさせる、不安の塊のようなものを解消できたのかもしれない。そのときのわたしには、見定(みさだ)められなかった。ぼんやりとした悲しみが、音もなく忍び寄っては常にわたしの周りから離れなくて、特に眠りにつく間際にはそこはかとなく心をかき乱していた。  いま、飯野さんは何をしているのだろう。  前の彼女さんと会っているのかな。  前の彼女さんのことをどう思っているんだろう。  どうして、仕事帰りの時間をわたしと一緒に過ごしたりするの?  誕生日に夕食をごちそうしてくれたり。  いつもメッセージでやりとりしたり。  お互いの予定を伝え合って、会える日を探していたの?  わたしのことは、どんなふうに思っているの?  飯野さんのそばにいるほどに、好きの気持が大きくなって、苦しくて、ふわふわ浮かんでどこか遠くへ飛ばせたらいいのに。あなたも好きでいてくれたら。  期待してしまう。  勝手に期待して、勘違いしてしまう。  夜毎(よごと)、布団のなかですすり泣いてしまっていた。  会いたいよ。会いたい。会ってちゃんと話がしたいし、気持を伝えてみたい。  でも、いいの?  気持を伝えて……。
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