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でも、飯野さんはわたしのなかにいた。
常々無意識のうちにそういった例えようのない感情――飯野さんへ向けられた独りよがりな好意があったのだろう。それは、飯野さんがこまめに連絡をよこすから。これまでの交際人数が一人というわたしは勘違いしてしまっていた。
正宏くんに、好きなひとはいるの? そう訊かれて、素直に片思い中であると答えた。でも正宏くんは、「さやかちゃんに好きなひとがいてもかまわない。それでもいい。付き合ってほしい」そう言った。
わたしは付き合えないと返した。それから彼は欠かさずメッセージをくれて、飯野さんの存在を忘れさせようとしているみたいだった。
そして、彼から三度目の告白があった。すっかり葉桜になって、寂しさが胸に迫る、四月末の夕暮れ時だった。
わたしは正宏くんと付き合い始めた。追いかけても見えない恋に疲れて、拠り所が欲しかった。
なぜ、こじらせてしまったのだろう。
ばかみたい。
自己中心的で。短絡的で、かまってちゃんみたいで。
そう、ばかなんだ。
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