1 君と呼ぶひと

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放課後、帰り支度を済ませた菜々が髪を手直ししながら私の席の横に来た。鏡もない中、一度解かれた髪がくるくると綺麗に結われていく。 「詩葉ちゃんは今日も駅?」 「うーん、その予定だったんだけど……今日は用事があるんだ」 「そうなの」 「菜々は華道の日?」 「ううん、私は今日は茶道の日だよ。私も駅に行けたらなぁ」 「ありがとう~。でも無理しないで。その気持ちが嬉しいから。茶道頑張ってね!」 「うん! また明日ね」 茶道もやってたんだ……。菜々がお嬢様に見えてきて目を擦りながら帰るのを見送った。 一呼吸おいて、さて、と椅子から立ち上がり、窓際の席に歩いていく。 不思議と、緊張はなかった。 瀬戸くんの席。 何かのノートをじっと見ていた瀬戸くんの前にしゃがみ、その黒い瞳を覗き込んだ。
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