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「帰るけど」
「うん! すぐ用意するね」
「まだ出来てないわけ?」
呆れ声を背中に浴びながら軽い足取りで席に戻り、バックにドバッと教科書を詰め込んだ。
自然と口角を上げながら瀬戸くんの席に目をやると、すでに本人はいなかった。
えっ。たった今約束したのに、忘れちゃった?
ドアの方を見れば、振り向くことなく教室から出て行く瀬戸くん。
慌てて追いかけドアを通ろうとしたところで、ちょうど中に入ってきた男子と右肩がぶつかってよろけてしまった。
「あのっごめんなさ……」
振り返り、視線を上げると、クラスメイトの立花紘人と目が合った。175cmの長身、ワックスでクシャッとさせた爽やかな焦げ茶の髪、優しさの滲み出てる二重の目、口角のよく上がる口元。
新学期、2大イケメンがこのクラスにいると学年で話題になっていたのを思い出す。それが、瀬戸舜太郎と、立花紘人だった。
「ごめんなー。よく見てなくて」
優しいその声が、まだ癒えていない私の心の弱い部分をチクッとさせる。
そんな気持ちを振り切るためにも、廊下の先を見たけれど、瀬戸くんが待ってくれる気配は微塵もなかった。
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