1 君と呼ぶひと

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昨日よりも涼しい曇り空の下、ベンチに並んで菜々と他愛ないことを話しながら昼食を終えた。有名女優が結婚する話とか、人気バンドが解散する話とか、そんな話。 予鈴の時間が近付いて、そろそろ戻ろうかとお弁当箱をしまっていると、突然菜々が立ち上がった。 「こ、詩葉ちゃん。私先に戻ってるね」 「え? ちょっ……」 いつも一緒に戻るのにとわけが分からず、ぽかんとして菜々の背中を目で追っていくと、菜々が1人の男子生徒とすれ違った。 菜々は気を利かせてくれたんだ。 紘人が立っていた。 紘人はいつもの余裕のある笑顔で菜々に何か声をかけてから、こちらに歩いて来る。 私と少し間を開けて、さっきまで菜々が座っていた左隣に座った。 ドクン、ドクンと勝手に心臓が速くなる。 でも、紘人は私には笑顔を向けず、困ったように眉を下げた。 「詩葉。手、見せて」 それがなんのことかすぐに分かり、私は観念して左手をゆっくり差し出した。紘人も昨日、楽器屋さんに行ったのかな。 指の長い大きな手が私の左手をそっと包み、心がきゅっと淡く揺れる。
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