1 君と呼ぶひと

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放課後、今日は華道で帰りを急ぐ菜々を見送ると、私なりに遠慮して、教室で声はかけずに玄関で瀬戸くんを待ち伏せした。 もう少し、話してみたかったから。 目の前に現れニコニコする私に、瀬戸くんは案の定嫌そうにため息をついた。でも私はそれも気にせず、歩き出す彼のあとに忠犬のように続いて校門を出る。 桜並木に差し掛かると、もうそろそろいいかなと瀬戸くんの横に並んで歩き始めた。すると瀬戸くんが、私には目もくれないまま話し出した。 「君さ、“彼氏と別れて1ヶ月で他の男に乗り換えた女”」 こんなにハッキリと嫌味を言われたら逆に清々しい。 「だった。朝は」 「えっ?」 驚いて瀬戸くんの顔を見る。でも、やっぱり瀬戸くんは私を見ない。 「それが帰る頃には、“二股女”になってたけど。君、どうしたらここまで噂させられる?」 「え」 ああ……きっと紘人と話していたから。噂好きな人って必ずどこかにいて、常に誰かのネタでも探してるのかそれは一瞬で広まる。校内にはプライバシーなんてないのかな。紘人に迷惑かけちゃった。 でも、同じように迷惑をかけたはずの瀬戸くんには、申し訳ない気持ちが湧き出てこないから不思議。
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